Pre-stage Voice1 北九州芸術劇場Produce「地獄八景・・浮世百景」(その1)
10年、20年前の録音で
今も新鮮に笑える落語。
その魅力をきっちり芝居にしたくて。
インタビュー●G2(演出家)
G2&松尾貴史の最強コンビが、手練れの作家・役者陣を集めては、誰にも真似できない個性的な舞台を世に送り出して来た演劇ユニットAGAPE storeが、北九州芸術劇場と連携!
上方落語の魅力をギューッと芝居に詰め込むべく奮闘中の演出家に、新たな挑戦への意気込みを聞きました。
■北九州芸術劇場Produce 「地獄八景・・浮世百景(じごくばっけい・・うきよひゃっけい)」 北九州公演
3月1日(木)19:00 2日(金)19:00 3日(土)13:00/18:00 5日(日)13:00
北九州芸術劇場 中劇場
>>詳しくは北九州芸術劇場サイト公演情報へ
「理想の喜劇」に近い
落語という話芸に再び挑戦!
―AGAPEstoreでは上方落語『地獄八景亡者戯』を現代に置き換えた舞台を2002年に上演しましたが、当時から、また上方落語を題材にした舞台をやろうと考えていたのですか?
G2●少し遠回りな話になるけれど、僕が考える喜劇と落語の関係についてから話してみてもいいかな? 06年初夏に僕は『OUR HOUSE』という翻訳物のミュージカル・コメディを演出して、その時強く感じたことがある。それは”翻訳物でミュージカル“という枠が笑いの部分を薄くしてしまうな、ということ。最初は笑えても、2回目観た時には笑えない、と言えばいいかな。で、僕がめざす喜劇は2度目3度目を観た観客が、同じように笑えるものなんですよ。意外性や衝撃で笑うのではなく、もっと根源的な部分を揺さぶるものでないと、人は何度も笑えないと思う。そう考えると落語というメディアはスゴイ、10年20年前の録音を繰り返し聴いてなお笑えるんだから。前回は、そういう落語の持つ『笑い』のパワーの凄さを、現代に置き換えたことで生かしきれなかった気がして。
―それは観客の反応などから感じたことですか?
G2●そう、作家の東野さんが新たに書いた部分でも、もちろん笑いが起こるけれど、元の落語を生かした部分は、それこそ鉄壁という感じで安定した笑いが毎回確実に返って来ていたんです。新たな部分は役者の調子などに、多少左右されたりもするのに、ですよ。だからもう一度、よりおおもとの落語に近い形で舞台化したいというのは、02年の上演中から頭のどこかで考えてはいたことなんです。
落語の魅力を損なわず
物語を強化して劇化する
―G2さんと落語の出会いは、どこまで遡るのでしょう?
G2●子供の頃、うちは寄席に連れて行ってくれるような粋な親父じゃなかったので(笑)、土曜の午後の演芸番組で見た落語が原点でしょうね。学校が半ドンで終わるとダッシュで帰って来て、普段、食事中はテレビはダメなのに拝み倒してその時だけは見せてもらっていました。子どもだから名前もロクに覚えていないのに、『この男前の若い落語家さん面白いよね』と、実はその頃から桂米朝師匠が大好きで。よく床を転がり回るほど笑っていたのを覚えています。そう、だから落語が好きという前に『米朝師匠が好き』ということが僕にはある。それだけ根源的に楽しんだものだから、今、自分のフィールドである舞台でやりたいと強く思うのかも知れませんね。それに、昔から僕はどうも『男前が面白いことをやる』ということに弱い。今回出てくれる升毅と長く劇団を続けられたのも、そこに一因があると思います(笑)。
―同じく少年時代からの落語好きである松尾さん、東野さんとの新たな台本作りは合宿で行われたとか。
G2●それは松尾さんが合宿好きなだけの理由なんだけど(笑)。でも、僕も良いアイデアが出るのはひとつのことを7時間以上考えた後からだと思っているので、合宿は有効だったと思います。合宿での作業は『「地獄八景〜」にいかに多くの他の落語を盛り込むか』ということ。僕としては大もとの「地獄〜」を捨てるぐらいの気持ちもあって、そこに何を盛り込むかを、僕よりも上方落語に関して豊富な知識を持つ二人に、セレクトして欲しかったんです。
―その、新たな落語を盛り込む際の選択基準はどんなものですか?
G2●上方落語はとにかく笑わせることが中心で、物語として弱い部分がある。それを補い、最終的に心揺さぶられ感動出来るものに台本を仕上げたかったので、人情噺的なものを盛り込みました。落語は非常に無駄のない、優れた話芸だから、舞台化する意義をちゃんと出せないと元の噺を聴いたほうが良いことになる。だから『感動出来る物語』、というのは舞台化するための必須条件でした。
古典・現代混成チームで
めざす本格時代物ワールド
―キャストも強力かつバラエティに富んだ方が集まりましたね。
G2●落語家さんや歌舞伎俳優の方を入れよう、というのは松尾さんのアイデアです。今回は江戸時代が舞台の時代物ですから、そういうジャンルの方は作品世界へのガイドもして頂けると思ったので、僕もその提案に乗りました。常々役者さんには演者としてだけでなく、より作品に深く大きく関わって欲しいと思っているので吉弥さんと吉坊さん、そして笑也さんはそのための強い味方になって下さると思っています。
―関西圏の俳優がそろう中、物語に芯を通す若旦那と小糸を佐藤アツヒロさん、高橋由美子さんの関東勢が演じるのも興味深いところです。
G2●確かにお二人とも関東文化圏の方ですが、作品全編を走り抜け、愛しい小糸のためにここまでするか! という行動力を発揮する若旦那像を考えたとき『アツヒロ君しかいない』と僕の中で真っ先にイメージした俳優さんが彼。その相方として、愛らしさと芯の強さを持つ女優といって、やはり浮かんだのが高橋さん。関西弁云々より、出来上がった物語を背負うにふさわしい方にお願いしたかったので、理想的な配役だと思っています。しかもこのお二人、高校の同級生で普段から友達なんです。舞台出演作も微妙に近いところなのに、共演は今回が初めてで、その親しさと初々しさの加減が、劇中の恋人同士にもぴったりだなと思っています」
―ラストにはイリュージョン的なシーンもあるようですが…。
G2●うーん、実はそこはまだ僕の中でも解決していない場面なので、今は詳しく話せないのですが……大掛かりな仕掛けや壮大なセットでどうこうというより、演劇という空間をいかに遊んで見せるかが、今回のテーマだと思っていて。役者が何役も演じることを始め、転換も敢えて見せるような演出にし、ローテクながら想像力を刺激するシーンになる、予定です(笑)。ご期待下さい!
1月から始まる稽古で舞台の全容もさらに具体化するはず。2月に東京で幕を開け、大阪公演を経て北九州で千秋楽を迎える北九州芸術劇場プロデュースの話題作、ぜひともお見逃しなく!
構成・取材・文/尾上そら 撮影/加藤幸広
>>その2へつづく
>> 北九州公演情報
>> G2 Produce サイト
2006年12月20日