Pre-stage Voice1 特集・韓国現代演劇が観たい!!
昨年の日韓友情年では、舞台に限らず様々な分野での文化交流が行われ、北九州芸術劇場でも韓国現代創作舞踊の第一人者である金梅子(キム・メジャ)さん(創舞芸術院)の「沈清(シムチョン)」や、02年に東京とソウルで上演された日韓共同製作作品「その河をこえて、五月」、日韓の伝統音楽家たちの共同作業と金理惠さんの韓国伝統の舞による「白い道成寺」を上演。そして今年7月、韓国の劇団として初めて劇団 木花(モッカ)が北九州芸術劇場で公演します。今号では韓流俳優の礎とも言える“韓国現代演劇”の魅力に迫ります。
写真/劇団 木花「ロミオとジュリエット」より
■劇団 木花 「ロミオとジュリエット」 北九州公演
7月21日(金)19:00 22日(土)13:00/17:00
>>詳しくは北九州芸術劇場サイト公演情報へ
Special Feature
私が韓国演劇から目が離せない3つの理由。
演劇コーディネーター・木村典子
1 パワフルな俳優たち
ここ数年、韓流ブームと韓国映画ブームで多くの韓国の俳優たちが日本でも知られるようになりました。韓国現代演劇の魅力の一つは、翻訳劇であろうと、創作劇であろうと、ミュージカルであろうと、舞台に立つ俳優たち。映画界には”大学路(ソウルの劇場街で50あまりの劇場が集まっている)が元気なら、映画界も元気になる“という話がある ほどです。「シュリ」「オールドボーイ」のチェ・ミンシク、「マラソン」のチョ・ウンス、「JSA―共同警備区域」「殺人の追憶」のソン・ガンホなど、韓国映画をしっかりと支えている演劇出身の俳優たちは数知れません。
では、韓国の俳優の魅力は? それはパワフルで、喜怒哀楽がストレート、そしてとてもオープンな演技です。時には、「新派劇じゃないんだから…」と深刻な場面で笑いが込み上げそうにもなりますが、これも韓国的な表現の特徴ではないかと思います。今回、北九州芸術劇場で公演される劇団木花の『ロミオとジュリエット』の中でも、きっと多くの方にこんな韓国の俳優たちの体当たり演技を楽しんでいただけることを願っています。
2 伝統と現代のミックス
初めて韓国の現代演劇にふれた時、とても新鮮に感じたのが”伝統“と”現代“をうまくミックスし、実験的で洗練された舞台を作り上げていることでした。これは70年代後半以降、演劇も 含め韓国の各アートシーンで生まれた流れの一つでもあります。韓国古来からの四つの打楽器を使った農楽(サムルノリ)、タルチュム(仮面劇)など、各種伝統演戯の技法を劇構造の中に組み込みながら、韓国の人々の生を躍動感ある表現で浮き彫りにしています。伝統は守られることも大切ですが、今を生きる人々の中で新たな表現となって、再生されるべきものだと感じさせられます。
劇団木花の呉泰錫は、このような韓国演劇の支流を開拓し、今も実践している劇作家・演出家です。彼が切り開いてきた”伝統の現代化“という仕事は、李潤澤(演戯団コリペ)、金洸甫(劇団青羽)など、次世代に引き継がれながら、また新たな伝統の再生が韓国現代演劇界の中で繰り返されています。
3 小劇場のダイナミズム
ソウルには、アジアのブロードウェイともいえる大学路という街があります。この街は大小50あまりの劇場が点在する現代演劇のメッカです。最近は演劇のジャンルも多様になり、創作劇、翻訳劇、ミュージカル、そして「ナンタ」のようなノンバーバルパフォーマンスまで、各種の作品が公演されています。
でも、何といっても韓国現代演劇の魅力は、100席〜150席あまりの小さな劇場での小劇場公演。小劇場での公演は最低2週間以上のロングランが基本で、このような小さな空間で鍛えられた俳優と作品との出会いはとても魅力的です。そして、客席もとても賑やか。可笑しければ大きな笑いが劇場を揺り動かし、悲しければハンカチで目元を押える姿とともに鼻をすする音があちらこちらから聞こえてきます。(時には携帯電話の呼び出し音まで鳴り響き、迷惑なこともありますが…。)舞台と客席がひとつの作品を共有し、一緒に作り上げる楽しさが感じられます。韓国のタルチュムやパンソリをみてもわかるように、演者は観衆を忘れることなく、客席に向かって言葉と身振りで合いの手を入れ、劇の中に観衆を取り込みながら進めていきます。これは、古くから演者と観客の間で育てられてきた演劇を楽しむ知恵なのかもしれません。
私なりの韓国現代演劇の魅力をあげてみましたが、劇団木花はこのような魅力を備えた韓国を代表する老舗劇団です。そして劇団代表であり、劇作家・演出家の呉泰錫は、韓国現代演劇の新しいパラダイムを切り開いた誰もが認める第一人者です。呉泰錫は今年66歳(1940年生)になりますが、今も新聞アンケートで韓国でもっとも実験的な演出家1位、韓国を代表する演出家1位に選ばれるほど、今日的な作品を作りつづけています。韓国現代演劇のアボジ(父)と劇団木花の『ロミオとジュリエット』をご期待ください。
執筆:木村典子 Kimura Noriko /1997年にソウル延世大学語学堂へ留学し、1999年より日韓の舞台コーディネーターとして活動を始め、劇団 木花に在籍しつつ、太田省吾「更地」(00〜01年)、松田正隆「海と日傘」(03〜04年)などを韓国の俳優、スタッフと製作。現在ソウル在住。雑誌などへの韓国演劇に関する記事寄稿も多い。
知っ得!日韓演劇マメ知識
〈伝統芸能から〉
マダン◎韓国語で「庭」「広場」という意味だが、日本語で考える以上の演劇的ニュアンスを含んでいる。昔、韓国の家では、屋敷の庭(マダン)で結婚式をしたり、芸人を呼んでマダンで見世物をしてもらった。そこで演じられたものがマダン劇であるが、現代演劇では、単なる伝統芸能の一様式としてよりは、人が集まる「場」である劇空間の意味とその批判精神が取り入れられている。
パンソリ◎朝鮮半島の伝統芸能の1つであり、物語に節をつけて歌うもの。演目は12編あったが、現在も歌われているのは春香歌、沈清歌、興夫歌、水宮歌、赤壁歌の5編。演劇や映画の題材として取り入れられることも多い。
〈最近の日韓演劇交流〉
今年3月にアルコ芸術劇場で、韓国演出家協会の主催によるアジア演劇演出家ワークショップが開催された。韓国から、パク・チョンヒさん「平心」(パク・ソンヨン原作)とソン・ヂョンウさん「椅子」(キム・ユンミ作)が参加、台湾から王榮祐さん「蝶の群れ」、そして日本から松本祐子さんが「20世紀少年少女歌唱集」(鄭義信作)で参加した。また、昨年は日韓友情年だったこともあり、日本での韓国現代戯曲ドラマリーディングや韓国の劇団による日本戯曲の翻訳上演、日韓共同プロデュースによる作品など多くの作品が上演された。(参考資料:岡本昌巳氏サイト「おかやんの演劇講座」http://pops.midi.co.jp/~mokmt/)
2006年06月20日