わたしの青い鳥
わたしの青い鳥物語
「参加者の皆さんの変化が、自分の遍歴」

第1回

「参加者の皆さんの変化が、自分の遍歴」

指揮者・樋本英一(ひもと・ひでかず)さん(57)

プロよりもとことん出来る、濃厚な時間
 舞台に上がるとなれば、経験の差はあれど皆同じ"歌い手"。常に厳しくも愛ある指導で参加者を導いてくれる指揮者・樋本英一さん。青い鳥とは今年で8年目のお付き合いです。

「長い間やってると色んな事があるもんだな、と思いますね。小学生だった子が高校生になっていたり、子どもが生まれて親になった人がいたり、毎年青い鳥の時期が来るのを楽しみにしてくださっていた方が、亡くなられた事もありました―。参加者の皆さんに色んな事があるから、自分の遍歴も改めて感じますね」

 プロアマ問わず様々な集団での指揮を手掛ける樋本さんは、青い鳥の魅力についてこう話します。

「期間限定や市民参加の場合、一人ひとりが積極的に意思を持って来るので、とても濃密な時間が作れるんですよね。特に北九州の皆さんは、その思いが強い。いち指導者としては"ワークショップ"と名のつく通り、音の形を作るだけじゃなくて、詩の内容の奥の方まで追究したり、ただの練習じゃない事をしようという思いもあります。ある意味、プロよりもとことん出来るし、皆さんが変わっていく姿を見るのも楽しいですね」

舞台を通して一人ひとりの人間が見える
 青い鳥に集う方たちは、年齢や性別・生活環境はもちろん、これまでの音楽への関わり方も様々。譜面が全く読めない人もいれば、長年合唱団で歌ってきた―という方もいます。しかし、そのバラバラの個性こそがまたもう一つの魅力の側面でもあります。

「それぞれの個性や思いがあった上で、それがある同じ方向に向かっている―という事こそが合唱の美しさです。でもただの合唱だけだと、ほのかに"個"が見えるかな?という位だったり、埋没してしまう事もある。青い鳥では、個々へのインタビューが入る事で、本当に一人ひとりがあらわになり、人間が見えてくるんです」

 とはいえ、これは始めから完成されていた形ではなく、年数を経る事で徐々に進化してきた結果なのだとか。

「毎回同じものをやっているんだけど、毎回違う、というのが実際に感じるところなんです。最初のうちは、ただ音を作る事に必死になっていた部分もある。でも年数を経て、経験者=リピーターの方が増える事で、合唱のベースはもちろん、初めての方もスッと入って来やすいムードなんかも出来ている。そうやって下に貯まっている層が厚くなってきた分、合唱とインタビューと、この作品が持つ素晴らしい部分がうまく相互に作用してきていると思います。1年や2年で終わっていたらこうはならなかっただろうし、無形のものですけど、そういうものも蓄積されるんだな、と思いましたね」
 

vol1_phB2.jpgのサムネール画像

 最後に、樋本さんが今考える"幸せ"についても伺いました。

「指揮者としては、目の前の人達が自分が求めている方向にハッと変わったり、花開いてくれたりする瞬間が幸せですね。個人としては、家で妻の作った料理を食べながら、ワインを飲んで話したり、テレビを見たりしながら"こういうのが幸せだな~"と思う時もあります。普段から"これが幸せだ"と常に思って生きているわけではないけど、青い鳥という作品が1年に1回ある事で、考える機会は増えましたよね。"幸せってなんだろう?"って考える事自体が照れくさかったり、おもはゆいところはあるけれど、青い鳥はそれをしゃあしゃあと出来る時間、だと思います(笑)」

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