──数多くある自作の中から、今回、土田さんご自身が「燕のいる駅」を選ばれた理由は?
土田:97年に外部に書き下ろした戯曲なんですが、以来、たくさんの団体に上演してもらえた作品でして、どの舞台も本当に面白かったのですが、自分で演出したのは99年の劇団公演のみだったので、いつか再び自分で演出して「決定版」のような舞台を作りたいと思っていたんです。ただ、さすがに15年前に書いた台本なので、若干古くなった部分もあって、一度きちんと書き直したいという思いもあり、この作品を選びました。 |
──どのようなコンセプトで作られた作品なのでしょうか。
土田:平和な懐かしい日本の風景があって、燕が巣を作る頃、穏やかな風が吹いていて――。そんな時に世界が終わったらどうなるんだろう、と思ったことから書いた作品です。一見、会話はのどかで牧歌的な雰囲気なんですが、背後にとんでもない何かがある。空にはかわいい形の雲が不気味に浮かび、そして周りの人間がだんだんいなくなっていく・・・というお話しです。実は、自分が小学生の頃に「ノストラダムスの大予言」という本が大ヒットしていて、それを読んだらもう怖くて怖くてたまらなくて、総理大臣に「この本を読んでおいてください。じゃないと世界が終わりますよ!」って手紙を書いたくらいなんです!(笑)。親父が受け取って「出しておいてやる。」と言ってましたけど(笑)。たぶん出さなかったとは思うんですが(一同爆笑)。それ以来、無意識にずーっと不安で、世界の終わりということを考えていたのかもしれません。 |
土田英生さん |
──MONOで上演されたのが、まさに、ノストラダムスの大予言で世界が滅亡すると唱えられていた99年の7月ですね。
土田:そうなんですよ。だからその想いが色濃く反映されていたとは思います。でも、書き下ろした97年や、MONOで上演した99年当時は、まだこの舞台の世界は絵空事だったんですよね。実際、この公演は震災をテーマにした作品ではないのですが、昨年の東日本大震災で引き起こされた原発事故は本当に恐ろしくて、テレビで強制避難区域の映像を見ても、風が吹いていて、花が咲いていて・・・一見、普通の風景なのに、でもそこには誰も住んでいない。この作品で描いていた架空の世界が、今現実に目の前で起こっているという、そういった事も考えながら脚本を書き直しました。
久ヶ沢徹さん | 久ヶ沢:台本を読んだ時に、これは15年前に書かれた作品ではなく、現在の状況を踏まえて、今回書き下ろしたとお客さんに思われるんじゃないかなというくらいタイムリーな作品になっているなあと思いましたね。去年の震災以来、どの劇作家の方も、一度「震災後」というフィルターに通した作品を作ろうとされている中で、そのことを意識する以前に作られたこの作品が、どういう舞台になって、自分自身がどういう風に演じていくのかは、本当に楽しみです。 |
──土田さんご自身が選ばれた、今回の出演者の方々をご紹介いただけますか。
土田:久ヶ沢さんの舞台をいろいろ観ていて、とにかく上手い方だなと思っていました。後日、僕の知り合いで久ヶ沢さんとよくご一緒されている演出家から「久ヶ沢さんにアドバイスをもらいながら楽しく作ってるよ」と聞いて興味がわいて、一緒にガッツリやったら気が合うんじゃないかと勝手に思いまして(笑)。あと僕は、芝居に対して真面目な人が好きなんですけど、かといって真面目過ぎる人もちょっと・・・という感じがあって、久ヶ沢さんはそのさじ加減がちょうど良さそうだなと、これも勝手に思いました(笑)。
久ヶ沢:ありがとうございます。土田さんの作品は、どういう設定においても、人間をきちんと描いているところが好きでしたので、僕もいつかご一緒したいと思っていました。あとよく、そう見えないと言われるんですが、僕は真面目ですよ(笑)。できれば公務員になりたかったくらい(一同笑)。
土田:酒井さんは10代の頃、映画「ラブレター」(95年。監督:岩井俊二。キネマ旬報第3位。酒井さんはこの映画で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞)に出演されていた頃から大好きな方で、以前からご出演いただきたいと思っていながら、なかなかご一緒できるチャンスがありませんでした。今回、その方に出ていただけるというだけで、本当に光栄ですね。 酒井:望まれて出演するというのは、役者としてとても嬉しいですね。今回の舞台、まず「燕のいる駅」というタイトルがすごく好きです。燕は渡り鳥で巣を作る場所は安心できる場所を選ぶというし、また幸せを運んでくるとも言われていますし。台本を読んでみたら素朴な会話の中に面白さもあり、大人の恋愛が素敵だなと感じました。ただの会話にならないように、読み込んで裏の裏まで演じたいと思います。 |
酒井美紀さん |
内田滋さん |
土田:内田さんは2年前に、僕の脚本の舞台(「相対的浮世絵」2010年シアターコクーン。演出:G2)にご出演されているのを観た時に「この舞台の会話は彼が繋いでいるな。僕の脚本のリズムをよく判ってくださっているな」という感じを持ったんです。舞台を支えていて本当に力がある方だと思いました。 内田:土田さんの作品は他とは類似しないものだと思います。自然な会話の流れの中に、ダイナミックな嘘というかファンタジーが入ってくるという不思議な世界で、とても信頼できる作品を書かれているので、今回演出を受けるのがとても楽しみです。 |
──皆さんの役柄を教えていただけますか?
土田:久ヶ沢さんはちょっと人生に疲れてる感じの駅員さんで、酒井さんはその駅の売店で働いている大人の女性の役です。この二人は、お互い好意は持っているのですが、なぜかそれ以上の関係には・・・という設定です。内田さんは駅員さんと親しい外国人の役なんですが、実は舞台は少しだけ未来に設定してあり、その頃舞台の世界では外国人への排斥運動があって・・・という難しい役どころを担ってもらいます。そのほかには、男性経験が皆無という50代の女性上司と
久ヶ沢:(土田さんの声をさえぎる様に)ああ!もう千葉雅子さんの顔しか浮かんで来ない!(一同爆笑)。
土田:ええ、千葉さんです。
久ヶ沢:やっぱり!(笑)。
内田:絶対はまり役ですよね(笑)。
土田:で、その女性上司と一緒に行動している、女の子が大好きな、ちゃらんぽらんな若い男の部下が土屋君で。
内田:僕は彼をよく知っていますが、これもはまり役ですね(笑)。
土田:で、いなくなった弟を探して駅にたどり着き、そのままずっと待っているお姉さん役として中島ひろ子さん。実は中島さんは、以前からMONOの舞台をよく観てくださっていて、いつか出演したいと仰ってくださっていたので、今回、ぜひこの役でと思いお願いをしたら、僕も知らなかったんですけど、初めての舞台出演なんだそうです。
酒井:それは意外ですね。
久ヶ沢:あんなにたくさんテレビドラマや映画に出ていらっしゃるのに。
土田:僕自身、大ヒットした中原俊監督の「桜の園」(90年。キネマ旬報第1位)での演劇部部長役の中島さんがすごく好きで、いい女優さんだなあと思っていたので、その初舞台に自分の作品を選んでくださったのは、本当に嬉しいですね。そして最後に、MONOから尾方宣久に出演してもらい、世界の滅亡に関する情報を持っている「滅亡オタク」の役をやってもらいます。
──今回は地方公演もありますね。
久ヶ沢:やっぱり、東京のお客さんと受け取り方が違うこともあるので、役者としては楽しみではありますね。
酒井:食べ物も美味しいですしね。 |
撮影:西山英和(PROPELLER.) |
──それでは最後に、今回の公演に寄せるお気持ちをお聞かせください。
土田:笑える芝居にしたいとは思いますが、誰もが共感できるような切なさを、一番観て欲しいですね。観終わった後に隣りにいる誰かを大切にしたくなるような・・・。そして今回は僕がお願いして、華のある役者さんたちに集まっていただいたので、この座組みが醸し出す空気をお客様に感じていただきたいと思います。
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2012年6月17日(日) 公演情報はこちら --------------------------------------- |