Pre-stage Voice1 北九州芸術劇場プロデュース「錦鯉」(その1)
北九州芸術劇場プロデュース「錦鯉」
縛られる人々、縛られない芝居
インタビュー●土田英生(劇作家・演出家/劇団MONO)+有門正太郎(俳優/飛ぶ劇場)
北九州芸術劇場プロデュースとして、初日開幕の北九州に続き東京、大阪など全国5ヶ所で公演される作品「錦鯉」。今回、作・演出の土田英生さんと、北九州からキャストに加わる飛ぶ劇場の俳優・有門正太郎さんに、作品やお互いの演劇観について語ってもらった。
■北九州芸術劇場プロデュース 「錦鯉」 北九州公演
11月3日(祝・金)13:00 4日(土)13:00/18:00 5日(日)13:00
>>詳しくは北九州芸術劇場サイト公演情報へ
ルールに縛られ翻弄される
コミカルで、哀しい人たち
―「錦鯉」は6年前に土田さんご自身の劇団、MONOで初演された作品ですね。今回はプロデュース形式での久しぶりの再演になりますね。
土田●今は、再演用に戯曲の見直しをしているところなんですが、再演って時間が経っているので冷静に見られていいですね。今回、役の構成を変えるので、変更具合を考えたり。もう絵は全部出来ています。もともとこの作品を書いたのは、娯楽作品を書きたいなと思ったことがありまして。いつも娯楽作品なつもりなんですが、僕の作品はなぜか“地味だ”と言われることが多いんです。だからそう言われないエンターテイメントなものを作ろうというのがありました。もうひとつは、テーマとして「周りの状況に翻弄される人々、ルールにコマの様に扱われる人々を書いてみよう」と。それで、ルールが一番厳しいのは何かと考えたら、ヤクザだなと(笑)。サラリーマンから急に、全く違うヤクザのルールに従わなければならない人たちが、翻弄されてさらに今度はヤクザでなくなったり。芝居の中にオセロが出てくるんです。オセロって、挟まれると色が変わるでしょ。同じように周りの状況が変わると自分もひっくり返る、コミカルで哀しい人間を描きたくて書きました。
作品に集中し演じることで
役者が生かされる演出を
―キャストは土田さんの意向ですよね。「この人がいい」という基準みたいなものは?
土田●僕は何をやる時でも性格重視なんです。普段どおりにフラットに付き合える人、それが基準だし、全てですね。今回のキャストの方々は皆とても良い方です。今回はヒロシくんが初舞台ということもありますし、それも目玉ですよね。
―有門さんは土田作品への出演は初めてですけれど、土田さんのお芝居はどうですか?
土田●僕が帰ってからしゃべる?(笑)
有門●ワハハ(笑)。実は、初めて観たのが「錦鯉」だったんです。すっげーおもしろい!っていうのと同時に、役者としては、大変そうだなとも思いましたね。役者のテンポや間が絶妙で、力量も問われるし、稽古で相当やり込まないとできないレベルだろうと。でも、挑戦してみたいとも思ってました。土田さんのお芝居って、他にはないタイプのものだし、率直に言って大好きです。漫才みたいなノリというか、でも名古屋弁のような方言が効いているのでるので漫才とは何か違う、妙に人を引き付けるというか。
―確かに戯曲は方言を使われてますね。
土田●僕は愛知出身なんです。ヤクザって関西弁にするとハマり過ぎ、標準語だとVシネマになっちゃう。だからどこでもないニュアンスを出したくて使いました。でも、アクセントは稽古場の中で、面白い人に合わせる感じですよ。今回は出演者の活躍する分野がバラバラなんで、全員の共通したトーンを探って行こうと思ってます。その基準を作るところは慎重にいきたいですね。
―今回、演出に関して特に重心を置きたところは?
土田●僕はみんなで築き上げる”笑い“が非常に好き。だから、役者さんがそれぞれに自分独自の表現をしていたら全体は成り立たない。サッカーに例えれば、シュートの機会はみんなに与えるから、守る時はちゃんと守って芝居を成立させたいという感じ。役者が作品ときちんと向き合い集中することでそれぞれの存在が浮き出てくるようにしたいな、というのが、今回の僕の仕事です。
―では、役者の有門さんにとって、稽古に臨むとき気をつけることは?
有門●僕は逆に、稽古ではとりあえずどこまで出られるか探ってみて、「ここまでやると芝居が崩壊するんだな」と理解するタイプですね。稽古でやってないと本番で出過ぎちゃう。飽きるまで稽古して、その中で飽きないものと必要なものを残すようにしますね。
土田●それ事前に聞いといてよかったよ。「いきなり何だよ?」とか思っちゃうから(笑)
どのまちでも楽しめる作品を
北九州から発信しよう
―北九州に劇場が出来たりと、この数年のまちの変化をどう思いますか?
有門●北九州でもジャンルの違ういろんな芝居が観られるようになったのは嬉しいですね。それに、劇場に来る最初の理由が「有名人が出てるから」ということだとしても、この北九州でたくさんの人が劇場に足を運んでいる。北九州にもお芝居に興味がある人がこんなにたくさんいるというのは、正直驚きでした。今回、僕はこういう大きな作品に出させてもらえる訳ですけど、出るからには「錦鯉」を観に来たお客さんに「北九州にもああいう役者がいるのか」と思ってもらいたいですね。「錦鯉」のお客さんが、飛ぶ劇場や他の地元の劇団を観に行くきっかけになりたい。今回は役者としても演劇人としても貴重な経験をさせてもらえる機会だし、次につなげていきたいです。
土田●”まち“ってことで言えば、ここに限ったことでないんですが、考えなしに町をきれいにしちゃうと日本の風景は全部似てくる。駅前とかがどこに行っても同じなのはいやですね。リバーウォークの辺りも妙にきれいだから、ここで作るものがキチンとしていないとその周りも空虚になる。まちの”売り“を作るためには文化はとても大切だと思います。だから、ここから一生懸命発信しなければいけない。そしてそれが土地のアイデンティティで制限されずに、どこでも変わらず受け入れられるものになることを、僕は意識してます。会話や演出を徹底的に追求することで普遍につながるようなもの、世界につながるようなもの。演劇を通じて、世界中で自分の芝居をやりたいなというのがありますね。
取材・文/豆柴屋(有延淑・橋口勝吉) 撮影/藤本彦
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2006年09月20日