わたしの青い鳥
わたしの青い鳥物語
「人生を支え豊かにする、歌の力」

第9回

「人生を支え豊かにする、歌の力」

井上達雄(いのうえ・たつお)さん(67)

歌に支えられた28年間

 青い鳥に出会って今年で4年目。2011年の春に28年間の単身赴任生活を終え小倉に帰ってきた井上さん。職場と家の往復だった日々の中、唯一の楽しみが歌う事であり、歌によって新しい世界や友人を得る事が出来た、と語ります。

「朝から晩まで働き詰めでしたが、唯一の楽しみが仕事帰りにスナックで歌って帰る事でした。腹の底から声を出すとスッキリして、次の日の活力が湧いてくる。長い間演歌専門(笑)でしたが、会社のカラオケ大会に出た時、一緒に出ていた同僚が"合唱団に来ないか?"と誘ってくれたんです。とにかくやってみよう!と入ったものの、合唱が何かも全く知らないし上手くも歌えない。結局仕事が忙しく一年で退団しましたが"もっと上手く歌えるようになりたい!"という思いが芽生えて、ボイストレーニングに通い始めました。合唱団で初めて会社以外の世界を知り、ボイストレーニングで良い先生に出会い、音楽への興味も広がった。単身赴任生活は、本当に歌に支えられていましたね」

 退職までの9年間ボイストレーニングに通い続けた事もあり、帰って来てからも何か歌う機会がないか...と思っていた矢先、たまたま娘さんが持ってきたというチラシで「青い鳥」を知ります。

「トレーニングの成果を試したいと思い参加しましたが、他のパートにつられてしまったり、合唱の難しさを痛感しました。でも何より、歌う事は楽しいし、良い先生方に恵まれている。その道に長けた人というのは、人間としての余裕やしなやかさがあります。初参加の時から、毎回ワークショップの度に先生に1つ質問をしているんです。そうやって、少しでも多くの事を吸収したいですね」

心を合わせること、それが合唱

 昨年は参加者としてではなく、観客として客席から舞台を見つめていた井上さん。歌声はもちろん、表情や目線など、様々な要素が客席と舞台を繋ぐ"心"の表れである事を改めて認識するきっかけになりました。

「歌う事は自分にとって自己表現であり、一方で、聞いている人達の心の代弁者でもあると思うんです。演歌も応援歌も失恋の歌も、心が伝わるから共感して貰える。だからこそ合唱の場合は、皆が心を合わせないといけない。合唱を始めた頃は"一人くらい声が出ていなくても..."なんて思っていた事もあります。もちろん互いにカバーし合えるのも合唱の良さですが、"心"が合っていないとダメなんですね。お互いの声を聞いて、心を合わせて歌う。それが合唱なんだと思うようになりました」

vol9inoue_phB.jpgワークショップに来る前には毎回、劇場前の八坂神社にお参りしているという井上さん。
「手を合わせて祈る事で心も整う。心を込めて歌う歌は、祈りにもなりますね。
長年の単身赴任の間、家を守ってくれた家族への感謝も込めて、今年も歌います。」

 現在67歳。多忙な会社員生活を終え、退職後はゆっくりと...かと思いきや、まだまだ新しい事に挑戦し続けたいと語る井上さん。退職時には"90歳代現役表明"をし「あと23年は青い鳥を歌い続けたいですね」と頼もしいお言葉も。

「歌詞の深さや幸せという普遍的なテーマ、青い鳥は本当に寿命の長い歌だと思います。昔から、音楽(芸術)とスポーツの2つを趣味として持ちたいという思いがあって、今、太極拳もやっているんです。太極拳は精神を集中させる=心を整えるという意味で合唱にも通じるものがあるんですよね。心身共に整えて健康に生活する。会社員時代は、日々の生活やハード面を整える事に精一杯でしたが、退職し青い鳥に出会って、ようやく心の豊かさといったソフト面での幸せというものを見つめる事が出来るようになった気がします」

ページの先頭へ戻る