わたしの青い鳥
わたしの青い鳥物語
「人生の教科書」

第10回

「人生の教科書」

ピアノ・白石光隆(しらいし・みつたか)さん(49)

作品という絶対的価値

 卓越した技巧と豊かな経験が奏でる美しい音、軽妙洒脱なトーク。いつも瞬く間に参加者の皆さんを虜にするピアニスト・白石光隆さん。青い鳥とは今年で11年目のお付き合いです。

「アマチュアも含め、合唱のピアノ伴奏は何度もやっていましたが、市民参加では青い鳥が初めてでした。青い鳥もそうですが、クラシック(古典)の場合は"作品"という絶対的な価値が存在し、僕も含めて全員でそのひとつに向かうという方向性が自然と生まれるので、皆が仲良くなり易い企画ですよね」

 ソロ、室内楽、協奏曲、古典から現代作品まで。様々な音楽を奏でてきた白石さんは、青い鳥の楽曲の魅力をこう語ります。

「長生淳という作曲家は、言葉のイントネーションをそのまま美しくメロディにする、という日本歌曲の書き方を踏襲しています。音楽のみならず、日本語の素晴らしさも伝わる楽曲だと思います。今のポップスは音楽在りきで、そこに言葉を詰め込んでいくので、言葉のイントネーションとメロディが合っていないんです。青い鳥は"チルチルミチル"という単語ひとつでもちゃんとイントネーションを合わせ、且つ美しく伝えている。素晴らしい作品だと思います」

 白石さんが参加者と対峙するのは、ワークショップ序盤と本番直前という限られたタイミング。故に、その変化に驚かされる事もしばしばだとか。

「いよいよ本番直前という時、ステージに向かう皆さんの気持ちが、なんとか曲を練習する...というところから何かを表現する気持ちに変わっている姿は、毎年感動的です。特に小学生の皆さんは、1ヶ月半で別人に成長している。そしてそれに負けじと頑張る大人達もやっぱり凄い。世代の広さがあるからこそ出来る成長だなと思いますね」

人が育ち、曲も育つ

 青い鳥は自身にとって"砥石のようなもの"と語る白石さん。年月を重ねる事によってプラスされるもの、マイナスになるもの。それら両方を含めて今の自分を知り、その先の目標を定める事が出来る。参加者やアーティスト、そして楽曲も。全てが時と共に変化し成長していきます。

「何年目かに長生淳さんが来た時"何も喋れなかった子どもが、綺麗な服を着て目の前に現れた気がする"と言っていました。毎年、ただ歌うだけでなく"曲を育てあげていく"という気持ちが参加者に生まれているし、今年は昨年とはまた違う青い鳥を創ろう、という情熱も感じます。僕自身も、毎年同じ譜面でも音は違うんですよね。いつも楽曲と向かいあう時、一日空いたら何か新しい発見をしようと思っていますが、青い鳥はその一年分。一年という期間があるからこそ気づくものも沢山あります」

vol10siraisi_phB.jpg毎日ピアノを弾きながら「今日も思い通りにいかない」というのが基本だと語る白石さん。
「だからこそ、自分が欲しい音を出そうと練習するし、明日に繋がる。
ひとつ音が出ればまた次の音、そのまた次の音と、夢が膨らむんです」

 最後に、白石さんにとっての"幸せ"についても伺いました。

「全てはピアノとの出会い、ですね。ピアノが傍にあるという事が全ての幸せを呼ぶ。出会いがあり発見があり、人生のパートナーでありテキストでもある。例えばソナタといわれるメロディには、全く違う二つのテーマが存在し、それが対立する事なく協力し合い刺激し合って、最後は同じ印象で終わる、という美しさを持っています。人間も同じで、個性の違う人々がいかに助け合い、協力し合って生きるかが大事なんですよ、という事を教えてくれるんです。合唱も、全然バックグラウンドの違う人たちが集まって一つの曲に向かう、という意味で、同じものを秘めているかもしれません」

ページの先頭へ戻る