北九州芸術劇場 学芸ブログ

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2013年11月13日 11:04

演出・穴迫信一さん インタビュー

公演が間近に迫りつつある、シアターラボ・リターンズ「みつことコンビニ、大臀筋。」先日、作の五郎丸さんのインタビューを掲載しましたが、今回は五郎丸さんの戯曲を演出する穴迫信一さんのお話をご紹介します。

シアターラボ2010の卒業生で、卒業後にパフォーマンス集団・ブルーエゴナクを立ち上げ、代表をつとめる穴迫さん。ご自身の演出についての考え方、「みつことコンビニ、大臀筋。」の解釈など、小屋入り直前の穴迫さんにお伺いしました!

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穴迫さんがシアターラボに参加しようと思ったきっかけは?

 今でこそシアターラボ・シリーズは、演劇経験の少ない役者やスタッフが勉強する場、という理解をしていますが、応募した当時は北九州芸術劇場のプロデュース公演のオーディションに落ちた直後で、何でもいいから演劇をしたいと、単純にその意思だけでした。「劇団をつくる企画なのかー」とは思ったけれど、それがどういうことなのかも深くは考えていなくて、どちらかというと役者を出来る可能性がある、というだけで応募した感じです。
 でも結果としては、とても勉強になりました。僕は役者として参加しましたが、役者も音響・照明・舞台などの班に分かれ、講座も受けるんですね。そういうのも全部楽しかったです。いろいろなことを、本当にシアターラボで初めて学びました。

シアターラボで経験したことで、印象に残っていることは?

 印象に残っているのはやっぱり演出の山田恵理香さんですね。長い時間をかけて一人の演出家の方と向き合う経験はこの時が初めてでした。山田さんがおっしゃることには「なるほど」と思う事ばかりで。
 山田さんの演劇観、演出手法の中で僕の中に残っているのは、「人間を見る」というようなことですね。「演劇=人間」といってもいいかもしれません。演劇の見せ方として、役者をどういう風に舞台上に居させるか、といったことをすごく考えていらっしゃる方だと思います。僕自身は、巡り巡って最近そういう思いが強くなっているんですが、今の自分の感覚に自信が持てるのは、山田さんの演出メソッドの体験があるからだと思います。
 例えば、「これが自分の武器」と思っている役者さんがいるとして、僕は「役者さんが自分の武器と思っている部分じゃない部分」を見たいと思ってしまうんです。その人自身の面白さとか、ある負荷がかかった時に見える魅力とか。今回もそういうことを考えながらつくっています。「自分ではそこを面白いと思っていると思うけど、でもそれ以外の方が面白いよ」ってことを僕が演出家と言う立場から伝えることで、役者にとっても新たな発見になると良いな、と思ってはいます。

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今回初めてご自身以外の方が書いた戯曲を演出するわけですが、五郎丸さんが書かれた『みつことコンビニ、大臀筋。』をどのように読まれましたか?戯曲の印象、戯曲の世界観についての穴迫さんの解釈をお聞かせ下さい。

 僕は、シアターデモ2013での「みつことコンビニ、大臀筋。」(以下「みつこ~」)のリーディング公演は観ていなくて、後からDVDで見たんです。映像で見るよりも前に戯曲を読ませてもらって、その時の印象としては「へんてこな戯曲だな」と思いました。処女作だから、とかではなくて、世界観がへんてこ...というか。僕たちの世代の絵画とか漫画とか、他の表現にも共通する特徴として、ある作品世界があって、本当ならそこで描かれているものの外にも世界は広がっているはずなんだけど、作中の登場人物たちはまるでそんなものは存在しないかのようにふるまっているというか、「この人たちは世界の外がないことを知っているのかも」と思う事があって。例えば思春期に「自分自身の存在もフィクションなんじゃないか」って思うようなことってみんなあると思うんですけど、閉ざされた世界で成立しているというか、その世界しかないという感じというか、「みつこ~」に描写されている世界にすごく偏りを感じたんです。
 あと、「みつこ~」に登場する人たちはバス停とその周辺に集まってくるんですが、これも集まってくるんじゃなくて集められてるな、と感じたんです。この人たちは演劇というものに集められているんだって。演劇の要請によって「集められている」ことの不幸さを、物語の中での「登場人物の葛藤」に寄り添わせて行くことで、フィクションやリアルのバランスを考えてみよう、というのが戯曲の解釈というよりは、「みつこ~」の世界観を立ち上げていく方法として考えたことです。
 でも本当に、最初に読んだ時は「なんかへんてこな戯曲だなー」という印象でしたね。

ブルーエゴナク(注)での演出は、独自のリズム感(作品中の音楽の使い方に限らず、全体的なセリフのテンポなど含め)と編集技術(個々の役者の特徴を的確にとらえた配置とシーン構成)が印象的ですが、穴迫さんご自身はご自分の演出の特徴、オリジナルな部分はどういった所にあると思われますか?

 演出手法とか演劇観とか、自分の中で「そろそろまとまっていないと」とは思っているんですけど、まだまとまっていないところも多いです。でも意識していることはいくつかあって、その一つは始まり方ですね。例えば、お芝居の前説を話している人が前説を話した後そのまま役を演じ始めるといった手法は最近よくありますが、どうやって芝居を始めるか、どういう風に「ここから先は嘘」とするか、といったことはずっと考えています。それは観客を取り込む瞬間の演出ということでもあると思います。お芝居の冒頭一分逃さなければ、観客はついてきてくれるっていうのは経験的にも感じていて。始まり方が単純にかっこいいとか面白いとか、「何だろうこれ?」ってなれば観てくれると思うんです。だから始まりをガツンと意識した演出は特徴の一つかな、と思うし、今回もそのことは意識しています。
 あとはブルーエゴナクの紹介文にも入れていますが、ロマンチックとかドラマチックっていうのはいつも考えていますね。それらがある作品はずっと退屈せずに見ていられる、それが最高だなって思うんです。それが僕の目指すところで、「編集技術」とか「リズム感」といったことは、そのために心がけていることかな、と思います。

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現在の稽古の進行はいかがですか?思いがけず良い瞬間が見られたり...といったことはありますか。

 よい瞬間は見られていますねー。例えばトモチン(深田さん)のがむしゃらさとか。彼のがむしゃらさは、役者としての魅力だと思います。それで勝てるというか、お客さんを離さないから、その方向で正解!って思える。今回は僕の意図が割とすっと伝わっている人と、意図は伝わっていないかもしれないけれどすごくがむしゃらにやってくれている人のバランスが取れていて、なんだか変なものになっているなーと思います。
 稽古休みの前にやった初めての通しが本当に面白くて。もちろんまだ改善点はたくさんありますが、それまで成立していなかったのに通しの中で解決されていることもいっぱいあって。これは絶対にどうにかなる、面白い!と思いました。本当に、これはとんでもない作品になるかもしれない、って思えて。すごくやりがいを感じているし、可能性も感じています。役者もスタッフも、今回初めて一緒に作品をつくっている人が多いですが、その人たちの個性を見てつくる、ということに集中できていると思います。

そういえば毎回稽古のあたまに「雑談」の時間を取っていらっしゃいますが、これも初めての役者と一緒だからだったりしますか?

 そうですね。雑談をする意図は二つあって、一つは単純にあまり知らないメンバー同士で作品をつくるので、空気作りですね。僕自身、「怖い」とか「言い方がきつい」とか言われることがあって、だから今回の役者にもそう思われている部分があるかもしれないと思って。ブルーエゴナクに出演経験のある役者さんからは「アナは役者に任せるタイプの演出家だよね」って言ってもらったりするし、自分でもそうだと思うんですけどね(笑)。
 もう一つは、やっぱり稽古して見えることもあれば、雑談のような中から見えることもある、ということですね。役者のみんながどんなことを面白いと思って話をふってくるか、どういうことに興味があるか、趣味は何か、その一日をどう過ごして稽古に来たか、昨日何があったのか、嬉しいこと、悲しいこと......特に何かを「見よう」としていなくて、ふわっとみんなの様子を見ているだけでも、それぞれの役者の生かし方のヒントが溢れてくるんです。それを待っている感じです。雑談している時は僕も別に「これ使える」とか思っているわけじゃなくて、普通に喋っています。稽古になったら、さっきまで喋っていた人がお芝居をしていることについて、その違和を減らす方向で調整をしていきます。舞台の上で、雑談の時のその人みたいなものが見られたらいいわけですから。素の時間を共有するのは、そういうすり合わせに必要だから、ということになります。

稽古場で役者に良く言っている言葉ってありますか?

 「演劇しない、演劇しない」とはよく言っていますね。演劇することは目的でもないし手段でもないと思っているんです。もちろん役者もスタッフも演劇がしたくて集まっているから、そういう意味では演劇は目的なんですが、演劇って結局結果的に見えてくるものでしかないのかな、と。その結果としての演劇体験をどう増幅していけるかは、まだまだ勉強中です。

今回の作品を演出するにあたり、こだわっている点、新たに挑戦したいと思っていることなどありましたらお話下さい。

 さっきお話した「フィクションとリアリティのバランス」という問いは一つありますが、もう一つは今回の見せ方として、みつこと加藤、高橋と園田のラブストーリーを軸にした所があって、登場人物が抱える恋愛や将来、人生や家族についての葛藤をお客さんにも共有してもらえればと思っています。五郎丸さんの戯曲の良さを活かしつつ、自分の作品としてきちんと提示できればと思います。


注)穴迫さんが主宰するパフォーマンス集団。2012年1月に旗揚げ公演を行って以降、これまで5本の作品を発表。最新作「サヴァリー ナトロメイド」では初となる九州ツアー(北九州、福岡、熊本)も行った。
ブルーエゴナクHP:http://buru-egonaku.com/