女性の眼と句で綴る演劇「花、盛ル。」
作・演出 鵜飼秋子さんインタビュー
8/29(土)・30(日)で公演が行なわれる「花、盛ル。」
日々、進化し続ける稽古場にて、作・演出の鵜飼秋子さんにお話をお伺いしました。
Q. 今回、俳句がテーマとなったきっかけは?
A. 「5・7・5」という限られた文字数で、大きな世界を表現することのできる。制限のある芸術というんでしょうか、スタイルがはっきりしているのが面白いと思いました。あと、俳句は、詩や小説以上に読み手の想像力を重視する所があると思うんです。作者の意図とは別に、それをどんな風に読むかを面白がることのできる芸術であるということが、興味深いと思ったんです。演劇にも似たような所があると思います。演劇も観る観客の想像力に訴えかけるように創っていくので。映像などに比べて制限が多いのも似ているかもしれません。
そうした俳句と演劇の共通点みたいなものを生かして、今回の創作に繋げられればいいな、と思ったのがきっかけです。
Q. 以前から俳句には親しまれていたのですか?
A. いえいえ、そんなことないです。以前、北九州芸術劇場で行われた永井愛さんのトークイベントの際*、永井さんに北九州の作家や、何か北九州らしいものをお土産に持って帰ってもらえたらいいな、と思って地元の女性作家について調べていた時に、杉田久女の作品を読んだんです。杉田久女はとても有名な作家ですが、それまでは読んだことはありませんでした。
* 二兎社+公立劇場共同制作「こんばんは、父さん」関連企画 劇作家 永井愛トークイベントのこと。http://www.kitakyushu-performingartscenter.or.jp/entry/2012/0818nagaiai.html
Q. 鵜飼さんにとって、杉田久女の作品の印象は?
A. 杉田久女の俳句は本当に格調が高いと思います。言葉の選び方に加え、文字の使い方というか...見た目の美しさでしょうか。杉田久女は万葉集を勉強していた時期があったりするので、その影響もあるのかもしれません。文字の配置などにも気を使っている感じがします。
Q. 「花、盛ル。」の稽古が始まった最初の頃、役者の皆さんにお話されている中で、杉田久女は俳句の中での彼女自身の主観の表れ方、主観の入り方が嫌味でない、とおっしゃっていましたが。
A. そう思います。それが評価の高さにも繋がっていると思います。あまり個人的な主観が入り込みすぎると、より詩などに近いものになるように思います。もちろん杉田久女の俳句には、描く対象を見ている久女自身が入ってはいるんです。でも読み手にも創造する余地を与える突き放し方というか、距離感がうまいんでしょうね。対象物=私みたいになると、結構鼻につくと思うのですが、対象と自分との距離の取り方がうまいと思います。
Q. 今回お芝居をつくるにあたって、モチーフとなる句を選ばれたと思うのですが、その際のポイントはありますか?
A. 元々主題になる句として、久女の作品の中でも最も代表的な「花衣ぬぐやまつわる紐いろいろ」という句が頭の中にありました。そこから花をモチーフにして選句をしていきました。あと、戯曲を書く前に俳優に何度か会って話をしたり、俳句をそれぞれがどんな風に読むかを知るために「作らない句会」という、読むだけの句会を行ったりしました。今回、私もほとんど初対面の俳優や話したことのない方が多かったのですが、句会などを通して俳優のイメージというか、持っている雰囲気を見られたので、そのイメージに合わせて花を取りました。
Q. キャストの皆さんの印象はいかがですか?
A. 今回参加している皆さんは、私が普段一緒に創作している「飛ぶ劇場」のメンバーと比べると、キャリアとしては短い人が多いんです。あと、ユニットとしての活動だったりプロデュース公演への参加が多いためか、劇団という集団の構造そのものに、私の世代ほど慣れていないという印象はありました。ただ俳優としては、みんなすごくセンスが良く、飲み込みも早いのでこれからが楽しみです。それから、誰にでも、普段演じている役とか、周りの人に期待されている自分像みたいなものがあると思うのですが、今回、そこから離れた本性むき出しの、自分でも見たことのない「私」みたいなものが、一人ひとり、演じる役の中で見えるといいな、と思っています。
Q. 鵜飼さんの作品は、女性の自意識や承認欲求がテーマになることが多いように思うのですが、そういったテーマに関心を持つ理由はありますか?
A. 人間であれば、誰でも自意識は当然あるんですが、俳優とか演劇をやっている人は、必ずその自意識を自覚しなければならなかったり、目立ちたいと思うことから逃れられないように思います。目立ちたいって思わなければ、やっぱりやる意味がないという所があると思うんです。人に見られることや表現したいという欲求から離れられないのだろう、と。それが自分の中で昔から面白く思う部分でもあり、嫌だなと思う部分でもあったと思います。演劇の世界では当然みんなそういうものを持っているから、あまり意識することも無いのですが、サラリーマン、公務員として勤めて、普通の生活をしていると、時々自分の中で、周囲に馴染まないというか、ちょっと異物感を覚えることがあるんです。組織の中で。それ自体は否定するようなものではないと思いますが、認めざるを得ないものでもあって。自分の中の自意識を、少しづつ距離を取って見られるようになった時に、昔は嫌でたまらなかったそれを面白いと感じられるようになったんでしょうね。昔は自意識というよりも、本当に承認欲求が強くて、「存在とは」とか「自己の確立」みたいなことをテーマにして書いていた時期もあります。最近はある程度、そういうことから距離が取れるようになったのかもしれません。
Q. 観客の皆さんへのメッセージをお願いします。
A. まずは杉田久女の俳句をみんなに知ってほしいと思います。その上で、俳句から自分がイメージするものと、舞台上で描かれる俳句をイメージした世界はおそらく異なると思うので、その想像力の違いみたいなものを楽しんで頂けたらいいな、と思います。
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(C)トミタユキコ
女性の眼と句で綴る演劇「花、盛ル。」
8月29日(土)14:00、18:00
8月30日(日)14:00
北九州芸術劇場 小劇場
一般2,200円、学生(高校生以下・要学生証提示)1,000円
※日時指定・全席自由 ※当日500円増 ※未就学児入場不可
作・演出
鵜飼秋子
出演
井中歩美(演劇関係いすと校舎)、内山ナオミ(飛ぶ劇場・さかな公団)、金子愛里(空中列車)、木村健二(飛ぶ劇場)、高山実花(モンブラン部)、狹間紀光、前元優子(劇団C4)、松本未来、守田慎之介(演劇関係いすと校舎)
詳細は劇場HPを
http://www.kitakyushu-performingartscenter.or.jp/event/2015/0829hana.html
間もなく本番を迎える「《不思議の国のアリスの》帽子屋さんのお茶の会」。
今日は9月某日に行われた製作発表会見の模様をお届けしたいと思います。
会見が始まるとなんと、
愉快なメンバー(出演者)達がエスカレーターから踊りながら登場!
物語に登場する眠りネズミ役のキャストが終始テーブルで眠っていたり、
真顔で立っている帽子屋さんがいたり...と、
愉快な舞台のひとコマがここでも垣間見えました。
演出・美術・出演となる近藤良平さん、
そして劇場プロデューサー能祖のコメントを併せてお届けします!
■北九州芸術劇場プロデュースシリーズの新たな潮流について
能祖:
"北九州芸術劇場プロデュース"という一連の作品の中には、2008年から続く北九州を何か醸すような素材でオリジナル作品を創り東京にも持っていく、という流れのシリーズがあります。昨年度は桑原裕子さんの「彼の地」という作品を創りましたがそれが非常に手応えがあって、ある種今までの集大成的なものになった...という思いがありました。だからこのシリーズはお終いという事ではなく、今年度は一旦お休みしてみようかなと。同時に、2013年にリーディングセッションで近藤さんに創って頂いたこの作品もやはり非常に手応えがあって、勿論どの作品も手応えはあるんですが、中でも特別な手応えを感じる作品というものがやはりあるんですね。
劇場の作品はある種、川の流れのような生き物だなとつくづく思っているんですが、その2つの手応えを踏まえて、今感じる流れにどう沿うか―と考えた時に、今年度はリーディングセッションから新たに立ち上がるものを、そして若い世代、高校生にも見せたいという思いがあり、今回一般公演の前日に高校生の演劇鑑賞を行うという企画になりました。
そもそも何故リーディングセッションを近藤さんにという点は、劇場のスタッフと話す中で近藤さんが演劇作品を創ったらどんな世界になるんだろうね、という興味から始まって、後はもう説明がつかない勘というか、大層面白いだろう!という気がしたんです。近藤さんはダンスの世界の方ですが、作品を拝見したりお話を伺うと、見てお分かりの通り(笑)とにかく好奇心旺盛で、新しい事にチャレンジする方なんですね。問題はどの脚本を使うか、という事でした。
近藤さんからはシンプルでファンタジーのものがいいという話があって、それで別役実さんのこの作品はどうかと読んで頂いたところ、物凄く面白い!と言って頂けて。別役さんの作品は不条理という哲学の立場で語られますが、この作品を含め80年代の作品はナンセンスの側面が強いんですね。特にこの作品は、84年に演劇集団円のこどもステージの為に書き下ろされた作品なので、ターゲットが子どもという事もあり別役作品の中では非常に分かり易く、笑える要素がある。その作品と近藤さんが出会った時に、別役さんが書く言葉の持つ身体性というか、そこがとても強調されたんです。小難しい顔をして味わうよりも体が反応するというか、見ている側も演じる役者も素直に笑える。それが大きな手応えになりました。
九州を代表する役者達とこうして中劇場でやれるのは新たな喜びですし、今回近藤さんが初美術という事でかなり面白いものになると思います。またダンサーのお一人としても出演されますので、こちらも非常に見どころです。
■リーディングセッションからの経緯と今回の新たな試みなど
近藤:
2年前オファーを頂いた時は「リーディングって何?」ていう感じで観た事もないし、それでいてそれをやろうという能祖さんも能祖さんだなと思いつつ(笑)、僕のやり方で良いという事でお話を受けました。別役さんは勿論知ってたけど、本をちゃんと読んだ事はなくて、おまけに今知りましたが(笑)僕の大好きな1984年に書かれてるんですね。マイケル・ジャクソンのスリラーの年、we are THE WORLDの一歩手前みたいな年かな。読んでみたら、僕は複雑な話は苦手なんですけど、このアリスは非常にハマりが良くって。2~3行取り出しただけでも、言葉がふざけ合ってる、会話になってない会話、みたいな感じとかが全部分かるんですね。完成形云々よりも、その文体とダンスの動き的な要素とのフィット感が凄く良かったので、ほぼ一発で決まりました。
オーディションは、僕は芝居のオーディションはやった事がないのでどうしようかなーと思いつつ、恐らく僕がオーディションをするという事は、ダンスをやっていて受けたい、芝居をやっていて受けたい、私何者か分からないけど受けたい、っていう3種類のパターンが来るんですよね。それで、それぞれに自分がどれに属するかを名札みたいに書いてつけて貰って、そこから本読みをやって貰いました。その時に一人は読んで、一人はその言葉に合わせて動く...みたいな感じでやったら、思いのほか面白くて、尚且つ今残ってる人達―どちらかというと、ダンスより芝居寄りの人達の動きの方が面白かったんです。それは、僕の中ではちょっと大きくて。
ダンスだけで物事を発信する見え方に挑戦する人と、芝居でキャラクターみたいのを表現しようとする人。例えば、僕がワン・ツー・スリー・フォーって踊るよりも、わぁびっくりしたー!みたいな動きの方が、言葉への反応として素直というか、身体の見せ方として伝わるんですよね。それで公演でも2人1役っていう方法を取ったんですが、動きをやる時はある意味言葉を全く発していないからダンサーなので、完全に動きをマスターしないと出来ないし、結構大変な2役をやる感じですよね。
今回基本的には前回と同じメンバーっていう事も重要で、リーディングの時は"ファ~~ッ"ていう(笑)バージンな感じで動きに突入したけど、今回は"もう私この世界知ってる"ってなっちゃう。でもそれじゃつまらないので、何か一つ細工を探さなきゃなっていうのが僕の課題ですね。と言ってもそんなに難しい事じゃなくて、基本的にはこの2人1役っていうスタイルをどうするか、肩を組ませたりまぁ色んな事が出来ますけど、その中で僕なりの見せ方っていうのをやりたいと思います。
リバーウォークや北九州はなんやかんや、「リバダン」ってリバーウォークの踊りを作ったり劇場で役者をやったり、結構立体的に関わっていて、そこで思うのは、スタッフワークと劇場の在り方と僕みたいな外部者の扱いと、すべてに関して、この劇場は物凄くレベルが高いと思うんです。スタッフが皆、一緒の土壌で物を見て考えてくれて、あーだこーだとすぐに反応してくれるっていうのが素敵やなー、と思っていて。なので今回、美術は自分でもいいかなと思ったというところがあります。僕はちょっといい加減なので、それを振るといい感じにミックスされて出来上がるんじゃないかなと(笑)。そういうスタッフワークも含めて、新しい事が出来るかなと思いますね。
細かい事はあまり言い過ぎると面白くないのでお楽しみにしといて貰いたいんですが、小劇場の時は山本容子さんの絵みたいなイメージがあって、森の中にいる人達、みたいになってたんですけど、今回はもっとニュートラルに、舞台美術としての森というのは僕の中ではないですね。音楽は前と同じく吉田トオルさんで、トオルさんの音楽はこのファンタジックな世界に必要不可欠だと思っていて。まさに1984年のシンセサイザー全盛期っていうか、それを駆使して貰ってます。今はそう珍しくもないですけど、シンセサイザーって面白いんです。物体的に面白い。今回は学生に見て貰える事も嬉しいし、僕は東京の人間なので、ある意味僕にとっては海外みたいなここの面白い仲間達に、東京に「おいで!」みたいな感じも嬉しくて、僕の家のすぐ近所みたいなあうるすぽっとに皆が来てくれるっていうのも、なんか凄く面白いですね。
■質疑応答
―今回作品の中でダンス的な要素は強くなりますか?また演劇演出の面白さや魅力、とまどい等があれば教えてください。
近藤:
僕達ダンスの人達は、空間を縦横に埋められると思っていて、舞台を移動するのも早かったり(笑)。なので、技術的にスゲーっていう踊りとかではなくて、そういう意味での、中劇場の空間に耐えうるダンス的要素の使い方は増えると思います。あとはもしかすると、ペア2人が一糸乱れぬ踊りのシーンとか...いいですよね~(キャスト一同は凍りつく)。まぁそういう方向もありかなと。
3~4年前にたまたまですけど野田さんの舞台などにも関って、ますます僕の中では、芝居とダンスと分ける必要がないというか、その思いが増しました。昨年埼玉で久しぶりにピナ・バウシュの作品を観たんですけど、その時もダンスやってて良かった~とも、芝居やってて良かった~とも素直に思えて。なので、いざ演劇の演出だから芝居があーだこーだっていう事は僕の中ではあまりなくて、素直に別役さんの脚本の面白さに向かい合っていきたいと思うし、そこから生まれて来る発想を僕なりにぶつけていこうっていう感じです。
―フラッシュモブなどまちにダンスを紛れ込ませる、溶け込ませようというような北九州芸術劇場の(ダンス・ダイブ・ウィークのような)一連の仕掛けや全国的な取組みについてはどう思われますか。
近藤:
ダンスのイベントとかは僕も色んなとこで見てるし、モブとかプロモーションビデオとかyoutubeのハッピーとか、今は色んなとこでダンスの輪やダンスで心の解放みたいな事が、10年前とは比べ物にならない位日常化してますよね。以前は祭という括りの中でやってたのが、そういう新しいダンスの関りが増えてきて、僕も昔からそうなればいいなーって思ってたのが、いつの間にかその中にいるなという感覚で。
僕もアイドルとかに振付をする時は、あんまり技術的な事じゃなくて、なんか"ルンルン"みたいな、全然振りなんか難しくないっていうそういうのが普通になってきたんですよね。もちろん技術が高い人もいますけど、要するに皆が踊れるみたいな、そういうものが増えてきたっていうのも今の在り方ですよね。
あとは本当に、ここの劇場の勢いだと思うんですけど、まちぐるみの一体感というか、なんか、凄いですよね。他の地域ではあんまり出来ていない事が実現出来てる気がします。小倉の駅からここまでの距離感とか、この大きさもいいのかもしれない。そういうのも含めて、小倉駅近辺をひとつの大きなステージと考えた時に出来るダンスのムーヴメントっていうのがもっと出来ると思うし、今はいい感じで動いてるなーっていうのが嬉しいですね。
写真だけを見ても分かるこの愉快な出演者が繰り広げるコミカルなステージ。
因みに写真の衣装は前回リーディングセッション時のもので、
今回は全く新しいものに...こちらもかなりパワーアップしています!
子どもも大人も、学生さんもご年配の方も、
皆が一緒に楽しんで笑顔になれる遊びゴコロいっぱいの近藤ワールド★
北九州公演は一回きりですので、どうぞ、どうぞ、お見逃しなく!(そして東京方面の方は、もうしばらくお待ちくださいね!)
―今回清水邦夫さんの戯曲を選んだ理由は?
もともとシェイクスピアなどの古典を自分の劇団でよく創っているのですが、富士見でつくるのであれば、やっぱり翻訳を介さない、日本人のものをやりたいと思って。それで近代くらいまで遡って探していた中に清水邦夫さんの戯曲があったんです。清水さんと同時代の方たちって、あまり清水さんの作品を上演していないんですよ。それで、ちょっとやってみたいと思って。