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2009年12月21日 15:43

エンゲキで私イキイキ、地域イキイキvol.06

『演劇LOVEワークショップ コミュニケーション編・想像力編』 2日目

講師/多田淳之介 会場/枝光北市民センター

2009年11月29日(日)

多田さんによる、演劇LOVEワークショップ。
2日目は、昨日と同じように1分間の会話の再現から始まりました。
今日は1日目とは変わり、「しりとり」を1分間続け、それを思い出しながら書き出すというもの。言葉を発した際の身振りやアクセントなども細かく思い出していきます。

たかが「しりとり」、されど「しりとり」。
1分間のしりとりの中にも、摩訶不思議な単語あり、「ん」を言って詰まってしまうことあり、結局答えが出ずに沈黙だけで終わってしまうグループあり、といろいろなドラマがあるものです。
もちろん「しりとり」以外の雑談(「それ言ったわよ」とか「うーん...思いつかないなぁ...」といったセリフ)も同様に書き出していきます。

そこで私が...

うーん...

グループごとに練習をした後、今日は、みんなの前に出て発表をします。
しかし、そこは一筋縄ではいかない多田さんのワークショップ。
ここにきて、多田さんのさらりとシュールな演出がバシバシ入りはじめます!

最初のグループは...
「じゃあ、みなさんちょっと離れてみましょうか...」
というわけで、こんなことに...

なんだか一人遠い人が...
距離が離れると、
ちょっと声が大きくなったり、
隣の人を見る時の首の動きが大きくなったりと、違いが出てくるのが分かります。

次は...
グループメンバーのうち二人が後ろ向き、という状況でしりとりです。
後ろ向きの二人は何があっても体を動かしてはいけません!

赤マルのお二人が後ろ向きです。

後ろ向きなのに普通にしりとりが進んでいく様子は、ちょっぴり不思議な印象...
でもまだ普通に会話している風に見えます。

今度は壇上の一人以外は全員後ろ向き...
壇上の人が語りかけてもみんな無視...しているみたいですね...
でもしつこいようですが、ここで行われているのは「しりとり」です。
この状態で「りか」→「かんづめ」→「めじろ」...なんていう会話が...

背中がちょっと寂し気です。

さらにさらに...
今度は全員が後ろ向きです。
みんな壁の方を向きながら、それでも、
「えー、それだめだめ」「これ言ったっけ?」なんていう会話をしております...


後ろ向きだけどおしゃべり中です。

なんだか摩訶不思議な世界に巻き込まれてしまった参加者のみなさんですが、
ここで多田さんによる、
「コミュニケーションとは?」というお話。
普段私たちは相手の表情やしぐさを見ながら、相手の言葉を聞き、いろいろな要素を総合的に取り込んだ上で、相手に対する反応を返しているわけですが、今やってみたことは、このコミュニケーションの時に情報として取り入れている要素のいくつかを意図的に遮断する試み、というわけです。
後ろ向きになって、相手の表情が見えない状況でもコミュニケーションは成立するのか?
その時頭の中では、相手の情報をどういう風に処理しているのか?
「この頭の中でのグリグリを僕はコミュニケーションだと思っているんです」と、多田さん。


頭の中でグリグリ―って情報が処理されていくんです。

さて、後ろ向きでもなんとなくコミュニケーションはとれているようだ...
ということが分かりました。
では今度はどうでしょう?


全員正面を向きます。絶対横を見ちゃだめ!


今度は一人だけ離れてみます。


さらに向きや立ち位置を変えてみます。なんだか演劇っぽく見えてきませんか?

台本は変わらないのに、
体の向きや立ち位置が変わるだけで、
そこに意味やストーリーが生まれてくるように感じてきます。
この男性は隣の女性に何か一生懸命話しかけているように見えるけど、女性の方は全く相手にしていないな...とか。
これも目の前の状況を、見ている側の頭の中でグリグリっと消化・判断した結果なのでしょうか...
舞台とそれを見る観客のあいだにもコミュニケーションを介した理解や認識というものが存在するんだなぁ、ということを感じさせられます。

視界を制限したコミュニケーションを試してみた後は...
なんと「ことば」を封じ込めてしまいます。
「ことば」の代わりに使うのは「手拍子」です。
まずは「手拍子」で「しりとり」をやってみます。

1129ikiiki_11.jpgのサムネール画像のサムネール画像

ポンポンポン(「リ・ン・ダ」)
ポポン(「え?」)
ポンポン(「なに?」)
ポンポン ポポン(「リンダ?」)

先ほどまでの流れを分かっているせいか、なんとなくそれっぽく聞こえてくるのが面白いです。
今度は二グループに分かれて、手拍子で会話です。
今回は台本はありません。完全にみなさんアドリブです。

言葉は分からないのに、なぜかこんなに楽しそう...

うーん、何て返そうかな...

ポンッ、ポンッ。ちゃんと受け答え=コミュニケーションになっています。

多田さんの要求はとどまる所をしらず(笑)、
手拍子の次はなんと、「立ったり座ったり」でコミュニケーションしてみましょう!とのこと。
「えー!」と言いながら、みなさん普通にやってます。立ったり座ったり...

一人が立つと...

なんとなく周りも立ち始め...

視線とタイミングのせいか、意味のある会話をしているように見えてくるから不思議です。

さて、もう誰もこの人をとめられません。
お次は...

「僕の友達を紹介します。エアコン君です。」

「彼は呼びかけるとかなり素早く反応を返してきます」(言いながらコンコンっと叩く...)

「さぁ、みなさんもエアコン君と会話してみて下さい!」
というわけで...

コンコン...

この辺はどうかしらね...

「次は床とコミュニケーションしてみましょう!」< p/>

どれどれ...なかなか温かいね。

仲よさそう!

「部屋の中にあるものと会話をしてみて、一番の仲良しを見つけましょう!」

わしはこのイスー!

会場はどんどん不思議な空気に包まれていきます。
でもみんな楽しそう!
これが多田ワールドなのでしょうか。

そんなこんなで、エアコンや床やカーテンやイスと戯れた後に、もう一度「しりとり」です。
いろいろな形のコミュニケーションを試してみた後で、今度は一つ一つのセリフをどう発してあげたら、そのセリフが喜ぶかを考えながら台本とコミュニケーションをとってみます。
一つ一つの単語に合わせた身振りを考えるグループ、
立ち位置や声の大きさまで演出するグループなど様々。
今回も、各グループの発表に多田さんがさらにアレンジを加えていきます。

最初のグループは、それぞれが離れた位置に立ち、
「しりとり」をしながら少しずつ近づいてきて、
最後は手をつないで「しりとり」...という演出。
これまでとはまた全然違った印象です。

楽しそうですねー

次のグループは、
それぞれが単語に合わせた身振りをつけた所に、
多田さんが白い不思議な物体を持ちこんできました。
多田「なんとなくこの物体を気にしながら『しりとり』してみて下さい。」

「リンダ」「え、リンダ?」というやりとりをしながらも、みんなの視線は白い物体にチラチラ...
そうするとなんとなくこの白い物体が「リンダ」のような「うさぎ」のような「ぎんなん」のような...
なんとも不思議な雰囲気が生まれてきます。

みんな不思議な物体に釘付けです。

それぞれの動きをかなり細かく作ってきたこちらのグループは、横一列になって動作を再現。
立ち位置が変わるだけで、それぞれの動きが際立ってきます。

おもしろさ倍増です。

そして最後のチームは、縦一列。
セリフを言う瞬間だけ立ちあがります。
立ち位置一つでこんなに印象が変わるものなんですね。
ちょっとしたことなのに、これはもうお芝居!すごい!

どっこいしょ。

あれよあれよという間に、多田さんに不思議な世界に連れていかれてしまった感のある、今回のワークショップ。
一つの動きが演劇的になる瞬間、一つのセリフと対峙する方法等、多田さんの演劇観がじわじわと伝わってくるワークショップでした。最初はちょっと遠くに感じられた多田さんの作品世界も、ワークショップが進むにつれ、「あぁ、こういうことなんだ」となんとなくしっくりいく瞬間が見えてきたのではないでしょうか。
こんな演劇もあるんだ、演劇ってなんだか面白い!
そんな純粋な楽しさを感じられた二日間でした。

 みなさん、お疲れ様でした!




講師プロフィール


南波 圭
なんばけい/俳優。大学卒業後NINAGAWAカンパニーを経てフリーに。蜷川幸雄演出作品やチェルフィッチュ、指輪ホテルなどの前衛的な作品になどに出演する一方、演劇ワークショップに関わり始める。子供からシルバー世代、障害を持った人たちなど、幅広い方々との多彩な演劇づくりに励んでいる。また、地元群馬県でお母さん世代と「かかあ祭り」をやるべく、ただいま画策中。

上田真弓
うえだまゆみ/大阪生まれ広島育ち。大学入学を機に沖縄へ。地元の劇団で演劇活動を始める。演劇企画「魚の目」を経て、フリーで劇作、演出、舞台・映像への出演を行う。ほかに、子どもたちのための演劇ワークショップや、一般の人のための朗読講座、表現ワークショップ。「ホエタマカイの夜」(98年)で沖縄市戯曲大賞佳作受賞。ウニココ楽団代表。珊瑚舎スコーレ講師/沖縄国際大学非常勤講師 ウニココ楽団 http://web.mac.com/unicoco/

多田淳之介
ただじゅんのすけ/1976年生。東京デスロック主宰。青年団演出部所属。「演劇LOVE」を公言し、演劇の幸せを宿志とし活動中。現代口語演劇から身体表現まで幅広く作品を手がけ、身体への負荷を利用した演出が特徴。海外での創作、国際演劇祭ディレクター、地域・教育機関へのアウトリーチなど、国際・教育・地域を軸に活動を行う。東京デスロックは2009年より東京公演を休止し、埼玉県富士見市民文化会館キラリ☆ふじみのレジデントカンパニーとして活動中。

吉栁佳代子
きりゅうかよこ/1975年生まれ・福岡県飯塚市在住ドラマティーチャー(表現教育家)・九州大谷短期大学非常勤講師・劇団翔空間 俳優・(特非)こどもと文化のひろば わいわいキッズいいづか事務局 ‘97年より演劇的手法の一つである「ドラマ」を用いて子ども達・おとな達と共にコミュニケーションから創作・創造への演劇活動を展開。小学校・NPO団体など北九州を始め県内を中心に実践多数。

有門正太郎プレゼンツ(有門正太郎・加賀田浩二)
ありかどしょうたろう/有門正太郎プレゼンツ主宰、1975年生。倉本聰主宰「富良野塾」、泊篤志代表「飛ぶ劇場」所属。役者として様々なツアー公演など参加する傍ら高校演 劇専科の講師経験を活かし、北九州芸術劇場「出前ワークショップ」「チャレンジ!えんげき09」の総合演出も務める。様々な人と出会い皆を満点の笑顔にしたいと考える。コンセプトは「日常的要素を持ち込み演劇的エッセンスを加えることで、より親しみ楽しんでもらおう」。

F’s Company(フーズ・カンパニー)福田修志
ふくだしゅうじ/F’s Company代表・劇作家・演出家。1975年生。長崎市出身。人の脆さを描いた作品や、『今の長崎』をモチーフにした作品を生み出している。「演劇を長崎の娯楽のひとつに」という想いから、どの作品にも必ず笑いを誘う要素を盛り込み、気軽に演劇を楽しめる環境作りにも取り組んでいる。昨今では、地元長崎の市民参加舞台において演出補佐を務めるなど演劇初心者への演劇ワークショップ的な指導も行っている。

柏木陽
かしわぎあきら/演劇百貨店代表/演劇家。1993年、演劇集団「NOISE」に参加し、劇作家・演出家の故・如月小春とともに活動。2003年にNPO法人演劇百貨店を設立し、代表理事に就任。全国各地の劇場・児童館・美術館・学校などで、子どもたちとともに独自の演劇空間を作り出している。近年の主な仕事に、兵庫県立こどもの館や、世田谷美術館での中高生向けワークショップの進行など多数。青山学院女子短期大学、大月短期大学、和光大学等で講師もつとめる。