彼の地

撮影:重松美佐

 
彼の地

北九州芸術劇場プロデュース「彼の地」公式ブログ

作・演出:桑原裕子(KAKUTA)
出 演 者:岩本将治、大神拓哉(企画演劇集団ボクラ団義)、尾﨑宇内、佐藤恵美香
出 演 者:椎木樹人(万能グローブ ガラパゴスダイナモス)、上瀧征宏、高野由紀子(演劇関係いすと校舎)
出 演 者:髙山力造(village80%)、多田香織(万能グローブ ガラパゴスダイナモス)、寺田剛史(飛ぶ劇場)
出 演 者:服部容子、平嶋恵璃香、美和哲三(14+)、吉田砂織(川笑一座)、リン(超人気族)
出 演 者:脇内圭介(飛ぶ劇場)

出 演 者:若狭勝也(KAKUTA)、佐賀野雅和(KAKUTA)、異儀田夏葉(KAKUTA)

公演日程:[北九州公演]2014年2月18日(火)~23日(日)
公演日程:[東京公演]2014年3月7日(金)~9日(日)

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2014.02.02 10:00

北九州芸術劇場プロデュース「彼の地」製作発表会見

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稽古開始の翌日、1月17日(金)に、北九州芸術劇場プロデュース「彼の地」の会見が行われました。作・演出の桑原裕子さん(KAKUTA)、当劇場プロデューサー・能祖將夫、そして今作に出演する19名のキャストが参加し、本作への思いや意気込みが語られました。
長文ですが、今回はほぼノーカットで、会見の内容をお届けします!

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■北九州芸術劇場プロデュース・シリーズについて

能祖:北九州芸術劇場では様々な作品を創っていますが、2008年に『青春の門 放浪篇』を製作したのをきっかけに、地域に立脚した作品創りを模索してきました。もちろんそれ以前からいろいろな試みを続けていましたが、私としては『青春の門 放浪篇』から、北九州だから可能な作品創りとして、どういった方法があり、またどういった作品がふさわしいのかを探ってきた所があります。そうした作業を続けてくる中で見えてきた「ものづくり」の指針として、本シリーズの特徴として掲げる5つについてまずお話いたします。
 本シリーズの特徴の一つは、内容に何かしらここの風土から立ち上がってくる匂いが含まれているということです。あからさまに「北九州」の名前を出すわけではなく、脚本のどこかに「北九州らしさ」が反映されたもの、を目指しています。二つ目の特徴は、旬の才能に北九州に来てもらい、約一ヶ月半ここに住みながら演出をしてもらう、という点です。この土地の空気を吸い、食べ物を食べ、それらを身体の中に取り込みながら演出をすることで、それらを作品に生かしていくというやり方です。三つ目はオーディションで選ばれる出演者です。今回も北九州・福岡を中心に九州各地、東京や大阪から95名の応募者がありました。その中から北九州・福岡の地元の才能を中心に16名を選ばせていただきました。加えて桑原さんの劇団KAKUTAから3名指名で来ていただいています。四つ目はスタッフです。北九州芸術劇場にはもの創りに参加できるスタッフが育っております。照明、音響、舞台監督などは劇場のスタッフを中心に据えております。公共ホールでテクニカルがものづくりに参加する機会は、あるようでないのが現実なのですが、この劇場はそれを可能にしているということが一つの特徴かと思います。劇場で足りない人材は主に北九州、福岡から参加していただき、それでも足りない場合は東京からお越しいただくことにしています。制作はもちろんうちの劇場でやります。最後に、北九州に加え東京公演を行い、東京に向けて発信すると共に東京の批評の目にさらすことで作品の評価を定めることを行っていまして、これらが本シリーズの五つの特徴となります。
 作家、演出家に第一線で活躍している方をお呼びすることの意義についてですが、特に若い作家・演出家に北九州に滞在してもらい、外の目からこの町を見て頂いた時にどういう風に映るのかを作品にしていきたいと思っています。先日、桑原さんとお話していたところ、桑原さんはそういった立場を「よそ者」と表現されていたのですが、中にいるとなかなか見えないことが、よそ者には見えることもあると思います。良い所も悪い所も含めて、外からの才能が見た時に映るもの、それはこの土地の新しい発見になっていくのではないかと思います。

■桑原裕子さんを作・演出に迎えるにあたって

能祖:今回シリーズ7作目になります。過去の6作は、偶然ではありますが、男性の作家・演出家によるものでした。今回、桑原裕子さんに作・演出をお願いするに辺り、女性の視点で描く北九州を作品にしたかった、という思いがあります。とはいえ、女性の視点という部分をことさら強調するつもりはありませんし、桑原さんにもそのことを特に意識していただく必要はない、と伝えています。ただ男が、男であることを意識しなくても自ずから男の目線になるように、女性はことさら女性であることを意識しなくても女性の視点というものが出てくると思いますので、それを見たいという思いがあります。
 もう一つ、今が彼女にとってとても良い時期である気がする、というのがこのタイミングで桑原さんにお願いした理由としてあります。実は、私は彼女を20年前から知っているんです。桑原さんがまだ高校生だった頃、私がプロデュースをしていた青山円形劇場で、現役の女子高生を21人集め、平田オリザさん作・演出で『転校生』という芝居を創りました。その時、約300人の応募者があり、一夏かけてワークショップ・オーディションを行い、最終的に21人が選ばれたのですが、そのうちの一人が桑原さんでした。その後彼女はKAKUTAという劇団を立ち上げ、そこからずっとお付き合いさせていただいているのですが、彼女が書くもの、創るものがすごくしっかりしてきたというか、地に足がついて来たという印象がありまして、ここでぜひお願いしたいと思ったというわけです。
 それから『彼の地』というタイトルが彼女から出て来たとき、私の中にはヒット感がありまして、「あぁ、いいタイトルを選んだな」と。その辺は桑原さんからまた詳しくお話いただきますが、今回の作品に大いに期待している所です。

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■『彼の地』の着想について

桑原:今お話いただいた『彼の地』というタイトルの着想からお話させて下さい。私は2009年に北九州芸術劇場リーディングセッションという企画で初めて北九州に来まして、その時一週間程度の短い滞在をしたのですが、その間にこの町のことがとても好きになりました。それで東京に帰ってからも、またあの地に行きたいな、と遠く思いを馳せていた感覚がありました。その、遠くの場所に思いを馳せる感覚が、まず『彼の地』というタイトルが生まれたきっかけでした。『彼の地』は、この町に住むナカヤマ君という一人の青年から派生する様々な人間関係を描いて行く形になります。その中にはこの町に住む人がいたり、やって来る人がいたり、出て行く人がいたりするわけですが、ナカヤマ君を軸として一本の話をやっていくというよりは、ナカヤマ君から派生して枝分かれしていった先に一つ一つのドラマがあり、そのドラマ同士がぶつかって別のドラマが生まれるような、そんな物語にしたいと思っています。ですので、一つの町の中で、同時進行でいくつもの物語が発生しているような形になると思います。
 なぜこういう形の物語にしようと思ったかというと、例えば私がこの町を好きだという時、その理由には言葉で説明できる部分と、どうしても言葉にできない部分があると思うのです。「彼の地」に思いを馳せる時には、その言葉にできない部分というのが、どこか含まれているように感じます。「それは何だろう...」と考えた時に、私にとってはこの町に住む人が醸し出す「何か」だったんです。言葉では説明できないような人の香り、人が醸し出す空気感、ここで出会う人と私との距離感といったものを通して、私はこの町を好きだと感じたのだろうと思ったのです。最初に訪れた後も、劇団公演などで来させていただいて、そこでまたこの町の人と仲良くなり、距離が変わっていき、また今回滞在していく中でその距離感は変わっていくと思うのですが、人と触れ合うことや離れることで変わっていく距離というのは、この土地にどんな人が住んでいるかによって変わっていくものだと思います。だからこの土地を描く時に、どんな人がこの町に住んでいるのかをやってみたい、と思いました。それぞれの距離から香る町の匂いを描けたら、と思っています。

■北九州の役者の印象

桑原:北九州の役者の印象としてずっと思っていることがあります。初めて北九州に来た頃からその印象は変わっていないのですが、一言で言うと「強い」という感じがします。「強い」「太い」「こしがある」みたいな。なんだかうどんみたいですけど(笑)。オーディションの時などは、最初はどうしてもお互いうかがい合うような感じがありますが、北九州の役者は最初から堂々としているな、怖がっている感じがしないな、と思って。もちろんこの北九州芸術劇場で名だたる演出家さん、劇作家さんとやってきた役者が多いから、というのもあるとは思うのですが、それだけではないというか。「どう見られたいか」よりも「どうありたいか」を大切にしているような印象があって、私はそこがこの町の人にも通じているように感じるんです。
 オーディションも含め、最初からお互い取り繕う所なく始められていると思うので、それぞれの生っぽい所を見せられるのではないかと思っていますし、地元の役者から香る匂いだったり、彼/女たちと関わる外から来た役者や私が起こしていく化学変化もあると思います。そうした中でこの町を描いて行きたいと思います。

■北九州の印象

桑原:北九州には初めて来た時から居心地がいいな、と思っていました。なぜだろうと思ったら、私の地元と似ている所がありまして。私は東京都町田市という、歩いて5分で神奈川県という東京のはじっこで育ちました。町田と北九州が似ているのは、自然環境が近くにある一方、とても煩雑な町の印象というか、町の中にいろいろな要素がぎゅっとなっているような所もあって...そのどちらも潰さず、あえて整頓することもなく、いろいろなものがただある、という所でしょうか。
 それから今回、作品創りのために取材をさせていただいたり、役者に話を聞いて思ったことなのですが、北九州の方達は意外と「地元愛」がある、ということが分かりました(笑)。みんな自分の地元のことを表面的には褒めないんですよ。「うちなんて」とか「うちはガラが悪くて」といったことをおっしゃるんですけど、その言葉の内に愛情や誇りがあって、でもそれを押し付けてはこない、という印象があります。声高に「いいでしょう」とは言わないけれど、でもしっかりこの土地を愛しているという感覚を、役者からも、工場などに見学に伺った際にも感じました。

能祖:ちなみに桑原さんは人の心を掴むのがとても上手な方です。過去2回北九州にお越しいただいたのですが、役者がものすごく彼女を慕うんですよね。姉御肌でもないと思うのですが、なぜでしょう...妙に慕われる(笑)。今回も出演する役者から慕われていると思います。これから嫌われて下さいね。

桑原:いやですよ!

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■質疑応答

Q:北九州でいろいろな所に取材に行かれたとのことなんですが、具体的にどんな所を取材されましたか?

桑原:北九州の方に連れて行って頂いた所は、平尾台です。私は小倉駅周辺しかしらなかったので、身近に自然があることがとても新鮮でした。あと皿倉山と若松の海岸の辺りを見せていただきました。
 地元の方からオフィシャルな北九州を見せていただいたので、ディープな北九州も見ようと思いまして、個人的にA級小倉というストリップ劇場へ赴きまして、女性なので半額で見させていただきました。あと、黒崎の工場地帯にある会社の一つにとても興味深いものを作っていらっしゃる所があって、見学のお願いをしたら快く迎えていただきました。5月に訪れた際は、電車に乗って適当な所で降りてみるといったこともしたのですが、北九州をまわっているつもりがいつの間にか市外に出てしまっていて。その時は、降りた駅でいい匂いがするなと思って辿って行ったらたけのこ工場があって。丁度たけのこを水煮にする作業をしていたのですが、急に押し掛けていったような形で見せていただいたこともあります。

Q:今回のお芝居の中に、北九州の具体的な場所は出てきますか?

桑原:今お話した所は全部出てくると思います。観光的な目線で出てくるのか、違う形で出てくるのかは分かりませんし、話題として出てくるだけかもしれませんが。名前がついているかどうか分からないような通りまで含め、かなり具体的に出てくると思います。

Q:桑原さんの作品では「距離」というのがよく出てきますね。今日も距離についてのお話がありましたが、「彼の地」でも距離感というのはキーになるのでしょうか。

桑原:そうですね。余談ですが、2011年に劇団公演で北九州に来た際、おでん屋さんに行ったら丁度そこで退職祝いをしている3人組のサラリーマンの方と一緒になったことがあります。そこで「退職祝いでつくった送る言葉を役者さん、読んでくれよ」って言われて、おでん屋でみんなで朗読することになったんです。退職する方の思い出を私たち役者が読む、という。別にそういう距離になろうとした訳じゃないのですが、いつの間にかそうなっている。いつの間にか気持ちよく笑い合っている。そういう感覚を今回の作品でも出せたらいいな、と思っています。


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北九州芸術劇場プロデュース「彼の地」 どうぞご期待ください!

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