2006年06月20日

Pre-stage Voice1 特集・韓国現代演劇が観たい!!

pre01.jpg
昨年の日韓友情年では、舞台に限らず様々な分野での文化交流が行われ、北九州芸術劇場でも韓国現代創作舞踊の第一人者である金梅子(キム・メジャ)さん(創舞芸術院)の「沈清(シムチョン)」や、02年に東京とソウルで上演された日韓共同製作作品「その河をこえて、五月」、日韓の伝統音楽家たちの共同作業と金理惠さんの韓国伝統の舞による「白い道成寺」を上演。そして今年7月、韓国の劇団として初めて劇団 木花(モッカ)が北九州芸術劇場で公演します。今号では韓流俳優の礎とも言える“韓国現代演劇”の魅力に迫ります。

写真/劇団 木花「ロミオとジュリエット」より

■劇団 木花 「ロミオとジュリエット」 北九州公演
7月21日(金)19:00 22日(土)13:00/17:00
>>詳しくは北九州芸術劇場サイト公演情報へ








Special Feature

私が韓国演劇から目が離せない3つの理由。


演劇コーディネーター・木村典子

pre02.jpg

1 パワフルな俳優たち

 ここ数年、韓流ブームと韓国映画ブームで多くの韓国の俳優たちが日本でも知られるようになりました。韓国現代演劇の魅力の一つは、翻訳劇であろうと、創作劇であろうと、ミュージカルであろうと、舞台に立つ俳優たち。映画界には”大学路(ソウルの劇場街で50あまりの劇場が集まっている)が元気なら、映画界も元気になる“という話がある ほどです。「シュリ」「オールドボーイ」のチェ・ミンシク、「マラソン」のチョ・ウンス、「JSA―共同警備区域」「殺人の追憶」のソン・ガンホなど、韓国映画をしっかりと支えている演劇出身の俳優たちは数知れません。
 では、韓国の俳優の魅力は? それはパワフルで、喜怒哀楽がストレート、そしてとてもオープンな演技です。時には、「新派劇じゃないんだから…」と深刻な場面で笑いが込み上げそうにもなりますが、これも韓国的な表現の特徴ではないかと思います。今回、北九州芸術劇場で公演される劇団木花の『ロミオとジュリエット』の中でも、きっと多くの方にこんな韓国の俳優たちの体当たり演技を楽しんでいただけることを願っています。

2 伝統と現代のミックス

 初めて韓国の現代演劇にふれた時、とても新鮮に感じたのが”伝統“と”現代“をうまくミックスし、実験的で洗練された舞台を作り上げていることでした。これは70年代後半以降、演劇も 含め韓国の各アートシーンで生まれた流れの一つでもあります。韓国古来からの四つの打楽器を使った農楽(サムルノリ)、タルチュム(仮面劇)など、各種伝統演戯の技法を劇構造の中に組み込みながら、韓国の人々の生を躍動感ある表現で浮き彫りにしています。伝統は守られることも大切ですが、今を生きる人々の中で新たな表現となって、再生されるべきものだと感じさせられます。
 劇団木花の呉泰錫は、このような韓国演劇の支流を開拓し、今も実践している劇作家・演出家です。彼が切り開いてきた”伝統の現代化“という仕事は、李潤澤(演戯団コリペ)、金洸甫(劇団青羽)など、次世代に引き継がれながら、また新たな伝統の再生が韓国現代演劇界の中で繰り返されています。

3 小劇場のダイナミズム

 ソウルには、アジアのブロードウェイともいえる大学路という街があります。この街は大小50あまりの劇場が点在する現代演劇のメッカです。最近は演劇のジャンルも多様になり、創作劇、翻訳劇、ミュージカル、そして「ナンタ」のようなノンバーバルパフォーマンスまで、各種の作品が公演されています。
 でも、何といっても韓国現代演劇の魅力は、100席〜150席あまりの小さな劇場での小劇場公演。小劇場での公演は最低2週間以上のロングランが基本で、このような小さな空間で鍛えられた俳優と作品との出会いはとても魅力的です。そして、客席もとても賑やか。可笑しければ大きな笑いが劇場を揺り動かし、悲しければハンカチで目元を押える姿とともに鼻をすする音があちらこちらから聞こえてきます。(時には携帯電話の呼び出し音まで鳴り響き、迷惑なこともありますが…。)舞台と客席がひとつの作品を共有し、一緒に作り上げる楽しさが感じられます。韓国のタルチュムやパンソリをみてもわかるように、演者は観衆を忘れることなく、客席に向かって言葉と身振りで合いの手を入れ、劇の中に観衆を取り込みながら進めていきます。これは、古くから演者と観客の間で育てられてきた演劇を楽しむ知恵なのかもしれません。


私なりの韓国現代演劇の魅力をあげてみましたが、劇団木花はこのような魅力を備えた韓国を代表する老舗劇団です。そして劇団代表であり、劇作家・演出家の呉泰錫は、韓国現代演劇の新しいパラダイムを切り開いた誰もが認める第一人者です。呉泰錫は今年66歳(1940年生)になりますが、今も新聞アンケートで韓国でもっとも実験的な演出家1位、韓国を代表する演出家1位に選ばれるほど、今日的な作品を作りつづけています。韓国現代演劇のアボジ(父)と劇団木花の『ロミオとジュリエット』をご期待ください。


執筆:木村典子 Kimura Noriko /1997年にソウル延世大学語学堂へ留学し、1999年より日韓の舞台コーディネーターとして活動を始め、劇団 木花に在籍しつつ、太田省吾「更地」(00〜01年)、松田正隆「海と日傘」(03〜04年)などを韓国の俳優、スタッフと製作。現在ソウル在住。雑誌などへの韓国演劇に関する記事寄稿も多い。



知っ得!日韓演劇マメ知識


〈伝統芸能から〉
マダン◎韓国語で「庭」「広場」という意味だが、日本語で考える以上の演劇的ニュアンスを含んでいる。昔、韓国の家では、屋敷の庭(マダン)で結婚式をしたり、芸人を呼んでマダンで見世物をしてもらった。そこで演じられたものがマダン劇であるが、現代演劇では、単なる伝統芸能の一様式としてよりは、人が集まる「場」である劇空間の意味とその批判精神が取り入れられている。
パンソリ◎朝鮮半島の伝統芸能の1つであり、物語に節をつけて歌うもの。演目は12編あったが、現在も歌われているのは春香歌、沈清歌、興夫歌、水宮歌、赤壁歌の5編。演劇や映画の題材として取り入れられることも多い。

〈最近の日韓演劇交流〉
今年3月にアルコ芸術劇場で、韓国演出家協会の主催によるアジア演劇演出家ワークショップが開催された。韓国から、パク・チョンヒさん「平心」(パク・ソンヨン原作)とソン・ヂョンウさん「椅子」(キム・ユンミ作)が参加、台湾から王榮祐さん「蝶の群れ」、そして日本から松本祐子さんが「20世紀少年少女歌唱集」(鄭義信作)で参加した。また、昨年は日韓友情年だったこともあり、日本での韓国現代戯曲ドラマリーディングや韓国の劇団による日本戯曲の翻訳上演、日韓共同プロデュースによる作品など多くの作品が上演された。(参考資料:岡本昌巳氏サイト「おかやんの演劇講座」http://pops.midi.co.jp/~mokmt/)

Posted by mt_master at 17:53

Pre-stage Voice1 特集・韓国現代演劇が観たい!!(その2)

pre04.gif

pre03.gif韓国で小劇場演劇が盛んに上演されているのはソウルにある大学路という地域。ソウルに旅行するついでに立ち寄ってみてはいかがでしょう?

●公演情報を探す


まずは公演情報サイトや劇場サイトにアクセスし、インターネットで公演を探してみよう。チラシ画像や写真もたくさん掲載されているし、無料の翻訳サイトを利用すれば作品の内容もかなりの程度分かる(但し、固有名詞の翻訳は苦手)。カレンダーからの検索もできるので、限られた日程の場合でも便利。気になる公演を見つけたら時間や劇場をしっかり確認しよう。会員制だったり登録項目の事情で、残念ながらインターネットでの予約は困難だが、韓国では当日券で演劇を観ることが多く、また人気公演や週末の公演でない限りは売り切れの心配もない。前売り当日の金額の差もないので、公演当日の2時間くらい前までに劇場に行けば大丈夫。

サランチケット http://www.sati.or.kr / Artian http://www.artian.net /アートセンター http://www.artcenter.co.kr /OTR http://www.otr.co.kr

●劇場に行ってみる


大学路は、地下鉄4号線の恵化(ヘファ)駅の1番か2番の出口を出てすぐ。カフェや料理店などの間に劇場がそこかしこにある。列ができている劇場は人気公演なので作品選びの一つの目安に。
国立劇場や芸術の殿堂など大学路以外にも劇場があり、そこでの公演も見逃せないものが多い。

国立劇場  http://www.ntok.go.kr / 芸術の殿堂 http://www.sac.or.kr


pre05.gif

劇場から歩いていける韓国料理店MAP

味術(ミスル)
pre06.jpgおいしい食べ物屋さんが並ぶ鳥町食道街にある、韓国通の常連さんで賑わうお店。海鮮チヂミ(¥700)チム鶏(¥1500)など韓国の家庭料理を味わえる。カウンター席のみなので、2〜3人でマッコリや韓国のお茶を頂きながらどうぞ。
小倉北区魚町1丁目4-17
TEL 093-551-0736
17:00〜23:00(火曜休)
9席


韓辛(からから)馬借店
pre07.jpgおしゃれな店内に、豆腐キムチ(¥389)やプルコギ(¥1365)、ビビン麺(¥819)など豊富なメニューが揃っている。本誌持参でミニサイズ豆腐キムチのおまけあり。

小倉北区馬借1丁目3-24
TEL 093-522-7701
17:00〜24:00(休なし)
80席


取材協力/木村典子・成耆雄・北村功治

Posted by mt_master at 17:54

Pre-stage Voice 2 特集・劇場の子どもたち

pre08.jpg“劇場”は、大人がおしゃれして普段と違う雰囲気を味わいに来る、そういう場所でもあるけれど、家族で一緒に楽しんだり、大人と子どもが一緒に作品づくりに取り組んだり…そういう場所でもあるのです。

pre09.jpg 昨年の9月から始まった今回の北九州ドラマ創作工房には、子どもから会社員、学校の先生など全部で35名が参加。そのうち18名が小中学生です。昨年の子どものための演劇ワークショップ「チャレンジ!えんげき」に参加して「お芝居をつくるのが好きになったから参加した」という子、「お話を作るのが好きでひとりで台本を書いたりしていたけど、みんなでつくるとどうなるんだろう」と参加してくれた子もいます。
”ドラマ“とは、自分の感覚や想像力を発見し、表現力を高めていく演劇活動のこと。特に、北九州ドラマ創作工房では、参加者が拠点地域を取材して見つけた“ドラマの種”から新しい物語を創り出すというスタイルで作品を創っています。小倉南区の吉田市民センターを拠点に題材探しをした今回は、新北九州空港の近く、曽根干潟にぽつんと浮かんでいる小さな無人島「間島(通称くじら島)」が物語の舞台となりました。最初から決まった台本はなく、この島を題材に「もし、自分がその場にいるその人だったら、どのように感じて、どんな行動をするのか」を参加者自身が徹底的に考え、シーンを作っていきます。
pre10.gif 取材をしたこの日は吉田市民センターを離れ、北九州芸術劇場の小劇場で取り組む最初の回。物語の骨組みは大体組みあがり、その中の出来事を具体的にしていく作業に入ったところです。くじら島で暮らす家族たちに起こる事件の場面を、演出の太宰久夫さんと大塚恵美子さんに見せ、「なぜこういう展開なのか」「無理に話を説明して不自然なところはどうすればいいのか」を話し合いました。この話し合いの場では、大人も子どもも関係なく、”この人だったらどうするのか“をとことん考え、意見を出し合います。
 この日は、事件の終盤部分のシーン作りにも取りかかりました。とある場所から出たくても出られなくなった人と、それを出してあげる立場の人。外に出たい人が、出してくれる人に言葉や態度で本当に「出してほしい」気持ちを伝え、本当に「出してあげたい」気持ちにさせないと扉は開けてもらえません。
“ドラマ”は過程が大事だとよく聞きますが、仲間と話し合ったり、本気の言動をやってみたりする様子からは、コミュニケーションに必要な要素や自分以外の人の気持ちを想像してみる体験が、その過程を通して生まれることがよく分かります。
 「くじら島騒動顛末記」の結末は、まだ決まっていません。7月の発表公演では、どのような物語になっているのでしょうか?


pre11.jpg「歌うことが好き!」という人たちが集まったのが、合唱物語「わたしの青い鳥」です。13人の子どもたちも参加、ご年輩の方もいらっしゃって幅広い年代の方が舞台に立ちます。
 この作品は、メーテルリンクの「青い鳥」を原作に、合唱に参加する人たちがチルチルミチルとなり、歌と朗読で、青い鳥、つまり”しあわせ“を探しに行く舞台作品です。
pre12.gif 取材した日は、第1回目のワークショップ。この日は、「”しあわせ“と聞いて浮かぶものは何?」「生まれる前にいた”未来の国“から地上に来るときに持ってきたものは何?」など、参加者のみなさんに“しあわせについてのアンケート“を書いてもらいました。実はこれ、作品中にも登場して、合唱のみなさんや観客の方に答えてもらうのです。公演当日、みなさんは何と答えるのでしょうか?
 第1回目は、”光の精“としても舞台に登場する大森智子さんに息の吸い方や出し方、声の出し方を教えてもらい、早速「チルチルミチル」のテーマを練習。初参加の人も多いのに、声も大きくて素敵な歌声でした。子どもたちは、ちょっと緊張気味の様子。今後練習を重ねて、ますます元気に歌ってくれることでしょう。

夏休み、家族で楽しむ劇場カレンダー

 ●7/2 sun>>平成18年度北九州ドラマ創作工房発表公演「くじら島騒動顛末記」
 ●7/9 sun>>合唱物語「わたしの青い鳥2006」〜青いつばさの歌がきこえる〜

<おとなも一緒に子どもたちの劇場シリーズ2006>


 ●7/25 tue-30sun>>子どものための演劇ワークショップ 「チャレンジ!えんげき」2006
 ●7/25 tue>>子供のためのシェイクスピア「リチャード三世」
 ●8/3 thu>>月猫えほん音楽会2006
 ●8/19 sut-20 sun>>ブロードウェイミュージカル「ピーターパン」

Posted by mt_master at 17:55

Resonance in HIBIKIHALL 野平一郎インタビュー

pre13.jpg

現代音楽の最先端を生きる知性が
ベートーヴェンの世界に見出すもの


2005年、バッハのゴルトベルグ交響曲で聴衆に鮮烈な印象を残したピアニスト
野平一郎が再び登場!ベートーヴェンへの熱い想いが、今、ここに


■2006響シリーズ 第2弾 野平一郎 ベートーベンの世界
9月10日(日)15:00
>>詳しくは北九州市芸術文化振興財団音楽事業課サイト公演情報へ

pre14.jpgバッハの《ゴルトベルク変奏曲》、そして弦の名手たちとの《冬の四重奏曲》の自作自演で、2005年9月、響ホールに颯爽と登場した野平一郎。今回のテーマは「べートーヴェンの世界」。
 嬰ハ短調作品27-2《月光》、ハ長調作品53《ワルトシュタイン》というベートーヴェンの2つの傑作ソナタと、ピアノとコンピューターのための近作《ベートーヴェンの記憶》を組み合わせたユニークなプログラムに、作曲家でありピアニストである野平一郎の現在が響く。

 「その名のとおりで、このホールはすごく響きが良かった。今回はベートーヴェンをテーマにして、半分はふつうにソナタを、もう半分はベートーヴェンを素材にした作品を演奏します。これはちょっといわく言い難い曲で、作曲家自身も一言では説明できないんですよ。ベートーヴェンへのオマージュ(※1)なのですが、やはり自分としてはベートーヴェンを20世紀の視点から批判的に捉え直すこともしたいし、そういうことを聴く人に考えさせる場としても機能するようにしたかった。謎解きをしてしまうとつまらないけれど、《月光ソナタ》と《ワルトシュタイン》がここでも重要な働きをします。『僕のベートーヴェン』というのを素直に出しているし、ひょっとしたら自分の演奏を補う作品なのかも知れない。」

1953年に東京で生まれ、1980年代にパリでコンピューターを用いた音楽の黎明期に立ち会った野平自身が抱く《ベートーヴェンの記憶》とは、どのようなものなのだろう。

 「この作品のもうひとつ重要な要素は、コンピューターを使うということ。僕は1980年代後半パリにいて、リアルタイムにコンピューターを用いるための作品の初演をしたので、そのプログラムを開発する現場に幸運にも居合わせることができた。それから、僕自身の認識としては、だいたい1960年から70年を境にして、ベートーヴェンの演奏が変わってきたと思う。それまでは、ベートーヴェンというのは西洋音楽のいちばんの権化でね、作曲家もそういうものを目指していたし、演奏家にとってもう一つのライフワークとなることが多かった。また、1970年は生誕200年でもあって、いろいろな作曲家がべートーヴェンを素材にした作品を書いたり、ベートーヴェンが様々に批判的な意味で取り上げられる機会になった。その時代を通りすぎたことが僕には大きくて、だから個人的にも《ベートーヴェンの記憶》みたいなことを考えてしまう。けれども僕は当時のように批判的にみるだけではなくて、一方で非常に尊敬しているところがあるから、この作品でもいつもどこかでベートーヴェンが鳴っている」。

pre15.jpgリアルタイムのコンピューターを、どのようにベートーヴェンの音楽に作用させていくのか。

 「モーツァルトだと生涯がオペラというか、どんな曲でも登場人物が次々に並列的に出てくる感じだけれど、ベートーヴェンの音楽は音響的にも空間を立体的に使って、さまざまな方位のことが同時に起こっている気がする。この作品も、繋ぎかたや展開のしかたは多様だけれど、すべてはベートーヴェンからきていて、僕が恣意的に創ったものはひとつもない。コンピューターだと音を100倍くらいに引き延ばせるから、ノイズがわーっと出てきてベートーヴェンを一瞬にして燃やしちゃうようなところもあるけれど、それもベートーヴェンを聴きに来た人に受け容れられるように書いたつもりです。ハイリゲンシュタットの遺書(※2)と不滅の恋人への赤裸々な手紙(※3)という、ほんとうに同じ人間が書いたのかというような対照的な文章も朗読で入っていたりする。お楽しみのところもあるし、シリアスな部分も、社会学的な要素も、純粋に音楽を聴く場面もあって、全体的に楽しい曲だと僕は考えているので、聴く方にもぜひ楽しんでほしいと思っています。」

演奏者・野平一郎と作曲家・野平一郎は、ひとりの人間のなかでどのように存在しているのか。

 「やっぱりひとりの人の両面なんですよ。作曲と演奏というのは、一瞬一瞬の積み重ねで、そんなに変わらないと自分の中では思っている。作曲というのは単に紙を埋めるだけではなくて、それが演奏されるとどうなるかということも考えるわけで、そういうときの頭の使いかたは同じです。僕は頭で考えたことが響きにならないと曲が発展しない人だし、また作品というのはある程度演奏されてこないと完成しない。そういう意味でも作曲と演奏というのは一体ですよね。だから自作自演というのは、案外重要なのかも知れない。ピアニストとしての僕にとっても、自分の作品がないと自分のアイデンティティにはならない。それから、古典をたくさん弾いてきたことと、自分の作品との繋ぎ目みたいなものを考えていきたいな、とここ数年思っていたんですね。《べートーヴェンの記憶》も書いて3年が経つから、なにか違うところが見つかる気もする。」

各地での演奏活動、多くの作品委嘱、後進の指導に、静岡音楽館AOIの芸術監督としての仕事など、多面多彩な活動のなかでどうバランスをとって行くのが理想的だろうか。

 「何か仕事をすれば、次はこんなことをしたくなる、という感じです。偶然に任せるという瞬間も必要で、意志をもって進むというだけでは、何か足りないんですよ。作曲でも人生でもピアノ演奏でも。創造ということに関わっている以上、偶然というのはとっても大切な要素なんですよね。」

pre16.jpgそれでは、音楽家の野平一郎は、生活者としての彼自身の人生とはどのような関係にあるのだろう。

「なるだけ音楽をするということが生活の一部になるようには考えているんですよ。それは別のことではない。美というのはいろいろあるし、それをひとつに規定してしまうことには僕は非常に反対です。自分がいまここに生きていて、自然にそこで表現できることを聴衆に伝えていくということしかない。かなりフランクにやろうとは思っているんですけれどね。でも、どうでしょう?」


※1:賛辞
※2:ウィーン郊外のハイリゲンシュタットで、耳の障害に悩まされたベートーヴェンが自殺を考え苦悩を書き綴り兄弟に宛てた遺書。
※3:生涯結婚しなかったベートーヴェンが恋人に宛てた情熱的な手紙。未だ相手の特定がつかず、“不滅の恋人よ”と呼びかけているためこの手紙の呼称となった。

取材・文/青澤隆明

Posted by mt_master at 17:56

[連載] 劇場ナン・コレ 第1回 舞台照明と照明家さん

nankore.gif「劇場の裏側、お見せしますよぉ〜。」
 K氏の”裏側“という言葉に心くすぐられ、気がつけば、晴天の昼下がり、薄暗い劇場内で驚喜しまくりの私がいた(笑)。というわけで(どういうワケだ笑)、自分なりに感じた「劇場の裏側」を紹介する事と相成りました。

 さてさて今回は「舞台照明と照明家さん」について。
圧巻!激圧巻!何種類もの灯体、電球、レンズ、カラーフィルター、模様盤等…とにかく半端な数じゃない。これらを組合せ駆使し、心理/状況描写等、各場面毎にあらゆる役割に変貌させる。ただ闇雲に組合せるのではない。”基本“は大切に試行錯誤を繰り返し、独自センスでオリジナルも生む。目の前に在るモノは十分理解・熟知してフル活用、「ないモノは創る」という職人気質。恵まれた環境に浸ることなく、日々何かを創り続けている姿は、見ていてとても心地良かった。
 照明家の仕事は、技術や知識はもちろん、好奇心をアート的センスに繋げる”向上心“も必要なんだろうなぁ。そして、
”技術“が進化して”芸術“になる時、暗い劇場内で舞台を”見せる”だけでなく”魅せる“アーティストがそこにいる。(↑”ゆるぎない自信“もこっそり仕込んだ光をニンマリ放ちつつ・・・。)
 一人でも多くの人がこの光に包まれて、「確信犯的アートの心地よさ」を体感して欲しい。

pre18.gif
〈今回のナン・コレ〉
■照明機材専用シェルフ(棚)・・・ズラリと並べられた何種もの照明機器は、ボディが黒いのも相まって、映画「マト○ッ○○」のワンシーン(銃器の棚がダーンと出てくる場面)さながらの迫力。確かに機材は、照明家さんたちの最後の武器だよなあ!
■オシャレに見えた補助ワイヤー・・・近年、安全面を考慮してついている、細いのに頑丈なワイヤー。このワイヤーのおかげで、「○曜サスペン○劇場」のように、女優頭上に灯体が落ちてきて、迷宮入り連続○○事件が起こるということはない。(そんなこと、昔もない笑)
■さすがにデカかった!照明プラグ・・・やっぱ電力が違うだけ、とにかっくデカかった。カッコ良かった!

文・イラスト トミタユキコ

Posted by mt_master at 17:57

[連載] HIBIKI サウンドブレイク 第1回 ホールは第二の楽器?

break.gif「ホールが演奏を助けてくれる」。これは3年ほど前に響ホールでリサイタルをしていただいた戸田弥生さんの口から、終演後自然に出てきた言葉です。この日のプログラムはといえば、イザイの無伴奏ヴァイオリンソナタをはじめとする難曲をそろえ、精も根も使い果たした、という感じの中でフッと漏らしたものでした。

pre17.jpg 数ある国際的なコンクールの中でも最高の難関といわれる「エリザーベト王妃国際コンクール」優勝という経歴を持つ実力派の彼女をしてこう言わせた、そのくらいに緊張感のあるステージだったわけですが、アムステルダムを本拠に、コンセルトヘボウを始めとして、カーネギーホールなど世界に名だたるホールで演奏している彼女にとってホールとはそのようなものなのでしょうか。
 「私たちの鳴らす楽器がホールの空間と響きあって、気持ちよく呼吸するような、そんな時間を作ることが出来たら素敵ですね」と戸田さんはリサイタル前に行われたインタビューで語っています。似たようなことを同じヴァイオリニストの徳永二男さんも以前語っておられたことを思い出します。「ホールは第二の楽器である」と。響ホールでのコンサートの途中で9人の出演者を紹介したとき、あたかも10人目のメンバーであるかのように響ホールを讃えたのです。
 九州で初めての音楽専用ホールとして建てられた響ホールですが、10年以上を経過してますます楽器の音との馴染みはよくなったようです。これからも演奏者との協力によってさらに深みのある音を紡ぎ出すホール、との評価を高めていきたいものです。

文 山根康愛

Posted by mt_master at 17:58

Audience impressions 〜観客席から〜

■今日ほど舞台が生のものであると実感したことはありません。1シーン1シーンが、現実と密着している感じでした。二人のそれぞれの性格や、紡ぎだされるやりとりに含まれる感情は誰でもが必ず感じるもので、観ていて全く無理がありませんでした。芝居の中の人生。舞台は劇場とは限らず、何処にでも存在するもの。その様々な舞台の中で人生に必要なものがわかってくるということ。そして、どれだけ人とは難しくて、面倒臭くて、だからこそ素晴らしいものであるかということをリアルに感じさせてくれた舞台でした。◎北九州市小倉南区 太田さやかさん/ライフ・イン・ザ・シアター
■今回初めて生のお芝居を観ました。なんかもう、やっぱり本物は違うっ!!ってことを実感できました。よく役者さんとかが「夢を与える仕事」って言ってた意味も理解できました。現実なんだけど違う世界に行ってた感じがして、終わった後も友だちと二人でしばらく放心状態になってしまい、帰りたくなかったです。また観に来たいです。◎山口県下関市 山名宏枝さん/ライフ・イン・ザ・シアター

◎響ホールフェスティヴァル
アンサンブル・ウィーン=ベルリン
●管楽器の音色が美しい。モーツァルトの世界に入ってました。素晴しい演奏会でした!
●今回午後3時〜5時というちょうどよい時間帯で、1500円というチケットの安さで、構造が美しい響ホールで演奏を聴けたので良かったです。スムーズに演奏や運営が進んでくれたので何一つ不満なく聴けました。
◎響ホールフェスティヴァル
ピアノソロとピアノ四重奏でモーツァルトを
●ピアノがすばらしかった。弦とのハーモニーがすばらしかった。
●初めて来ましたが、名前の如く音響のよいひびきで素敵でした。また機会があれば聴きに来たいと思います。
●演奏者のレベルの高さに感動。熱気のある演奏で、しかもプログラムが変化にとんでいて楽しかった。
◎響ホールフェスティヴァル
2本のギターとフルート、オーボエのアンサンブル
●フルート、オーボエとギターの取り合わせは初めてでとても素晴らしかった。心に染み入る音色で演奏もさることながら表情・所作にお人柄が感じられました。是非再演を願う。
●美しい音色にとても優雅な気分になれました。フルート、オーボエに関してはオーケストラの一部としてでしか聴いたことがなかったので今まで良さに気づきませんでした。
●管とギターが見事にマッチングしていた。管の音量の大きさに負けると思っていたが、ギターの存在感が素晴らしかった。音量、音の強さではないことをよく知ることができた。

舞台のご感想をお寄せください。
Eメール info@kicpac.org
郵便
〒803-0812 北九州市小倉北区室町1丁目1-1-11
リバーウォーク北九州5階 芸術文化情報センター内
「ステージ通信Q」感想係
次号掲載分締切り=8月末日
*郵便番号・住所・電話番号・氏名・ペンネームを明記の上お送りください。
*掲載の際、編集部で文章をまとめさせていただく場合もあります。

Posted by mt_master at 17:59

Stage Preview

<北九州芸術劇場>

[演劇]
7/1(土)・2(日) 劇団ダンダンブエノ Go!Go!公演 「トリデ」〜砦
9/23(祝・土)・24(日) 「伝説の女優」
■9/22(金)〜24(日) 飛ぶ劇場「正しい街」
■9/26(火)・27(水) 「敦 ―山月記・名人伝ー」
■10/13(金)〜15(日) イッセー尾形一人芝居「イッセー尾形のとまらない生活2006 in 秋の小倉」
■11/3(祝・金)〜5(日) 北九州芸術劇場プロデュース 「錦鯉」
■11/18(土)・19(日) 「奇跡の人」

■10/1(日)〜12/17(日) 第14回北九州演劇祭

[ドラマリーディング]
■8/19(土)・20(日) 北九州芸術劇場リーディングセッションvol.6 「近代能楽集」 〜「班女」「弱法師」〜

[ダンス]
■9/9(土)・10(日) ダンスラボ2006

[伝統芸能]
■9/2(土) 春風亭小朝・林家正蔵二人会
9/4(月) 松竹大歌舞伎「十八代目中村勘三郎襲名披露」公演

[パントマイム]
■10/7(土)〜9(祝・月) 第4回北九州パントマイムフェスティバル


<響ホールほか音楽事業>

7/15(土) 2006響シリーズ第1弾 市原多朗・緑川まり デュオリサイタル
■9/17(日) 2006北九州国際音楽祭 プレ・トークショー すぎやまこういち 聞き手:奥田佳道
■10/9(祝・月) 北九州国際交流ウィーク2006参加事業 チャボロ・シュミット 〜もうひとつのジャズ、ジプシー・スウィングの世界〜10/8(日)〜11/17(金) 2006北九州国際音楽祭

[CHOICE]
7/2(日) 第30回北九州少年少女合唱祭
8/27(日) 北九州市ジュニアオーケストラ 第24回定期演奏会
■9/16(土) 九州交響楽団 第41回北九州定期演奏会 <知られざるベートーヴェンの世界>

Posted by mt_master at 18:00