世界の檜舞台で躍進中の俊英、才媛、ジャンルをひらりと飛び越える新世代の旗手たちが、嬉々として北九州にやってきます。音楽の喜び、ライヴの醍醐味を満喫する2006北九州国際音楽祭が近づいてきました。
鮮やかなテクニックと情趣あふるる音楽性で、欧米のクラシック・シーンを牽引するアジアの若手ピアニストや、日系の愛すべきヴィルトゥオーゾ・チェリストが名乗りを挙げれば、ファン憧れのトップアーティストも登場。
北九州から羽ばたきプラハのオペラハウスで賞賛のソプラノや、最難関の国際コンクールで脚光を浴びた新星にも、どうぞ拍手の花束を。
グランドフィナーレを飾るのはロシア屈指の名門オーケストラで、はやくも喝采が聞こえてくるかのよう。
ようこそ 2006北九州国際音楽祭へ。
伝統や本場という意識は、漫然と長い年月が過ぎるのを待っていれば生まれるというわけでもありません。関わる人たちの努力や愛情、深い理解などが伴わなければいけないのであり、音楽の場合は飽きるほどに何度も何度も繰り返し演奏され、音楽家にとっても聴衆にとっても身内感覚になるほどでなければ、認めてもらえないでしょう。
今年、生誕100年を迎えた旧ソヴィエト連邦の作曲家、ドミトリ・ショスタコーヴィチの音楽を考えるとき、もっとも「伝統」を感じさせるオーケストラがサンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団であることは、多くの音楽ファンが認める事実だと思います。なにしろこのオーケストラは、亡くなってから20年近くになろうとしている今でも新しいファンを増やしている伝説的な指揮者、エフゲニ・ムラヴィンスキーのもとで、ショスタコーヴィチの重要な作品をいくつも初演し、国内外で何度も演奏をしてきているのですから。
1802年に創設された「ペテルブルグ・フィルハーモニー協会」がそのルーツとされますので、オーケストラの歴史は200年以上。モスクワと並ぶ二大文化都市として歴史を築き上げてきた街において、このオーケストラはロシア文化と音楽の中心的な存在でした。1917年、ロシア革命をきっかけに国立レニングラード・フィルハーモニー交響楽団として新しいスタートを切ったオーケストラは、1938年にムラヴィンスキーを常任指揮者に迎えますが、その前年(1937年)に初演を行ったのがショスタコーヴィチの交響曲第5番でした。それ以降は作曲者の信頼も厚く、オーケストラはムラヴィンスキーの厳しいトレーニングを受けながら、重要な作品の初演を含む多くの演奏を行ってきたのです。つまりはこのオーケストラがショスタコーヴィチの音楽を最初に創造し、長い年月をかけて熟成させてきたと言えるでしょう。そしてそれは、ムラヴィンスキーの死後に楽団員の投票で芸術監督・首席指揮者に選ばれた、ユーリー・テミルカーノフの時代になっても同様でした。
今回の北九州公演では、そのショスタコーヴィチ作品が2曲。特に交響曲第5番は、前記の通りこのオーケストラが約70年前に初演しているだけに、「本場」という勲章を堂々と引っさげての公演。音楽の1フレーズ、1ハーモニーに確かな自信が感じられ、”ショスタコーヴィチの言葉“が自然に音楽となってわき出てくるような演奏ができるのは、世界広しと言えどもこのオーケストラだけでしょう。またエフゲニ・キーシン(ピアノ)と同じ時代に神童として登場したワディム・レーピンが、ヴァイオリン協奏曲第1番を演奏。作曲者の盟友だったヴァイオリニスト、ダヴィド・オイストラフが初演をした作品ですが、デビュー時に「オイストラフの再来」と絶賛されたレーピンだけに、こちらもまた作品に深く共感した音楽が奏でられるのは間違いありません。さらにはストラヴィンスキーほか多くの作曲家を育てた”オーケストラの魔術師“リムスキー=コルサコフも、このオーケストラと関係が深かった一人。つまり今回の北九州公演は、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団が誇りを持って皆さんにお届けする、本場最高級のロシアン・ディナーなのであり、心が熱くなるような体験を約束してくれるコンサートなのです。
○執筆者/山尾敦史(音楽ライター)
>>その2につづく
楽都ウィーン在住の若きソプラノ歌手で、ここ数年、伝統と格式を誇るプラハ国立オペラの「蝶々夫人」の主役に抜擢されている北九州市出身の豊嶋起久子さんにウィーンで話を聞きました。豊嶋さんは、20世紀を代表するメゾソプラノでウィーン国立オペラの宮廷歌手・名誉会員に叙せられているクリスタ・ルートヴィヒの秘蔵っ子でもあります。
素晴らしい先生に出逢いましたね。
「ご自宅やウィーン国立歌劇場の練習室でのレッスン―光栄なことです。雰囲気ではなく、テクニックで歌うこと、技と心の関係の大切さを学びました。
それだけではありません。年齢やキャリアに応じて変わる役柄や声についてもアドヴァイスを戴いています。先生の経験談、指揮者や共演者のお話も勉強になりますね。」
プラハで「蝶々夫人」を歌い、ほかにモーツァルトやヴェルディの「椿姫」のヴィオレッタ役も得意としていますが、これらを両立させるのは実はとても難しいですよね。
「ええ。ロマンティックなレパートリーを歌った後にモーツァルトを歌うのは大変なんですが、それを克服出来たのは、両者に共通するテクニックを教えて下さったルートヴィヒ先生のおかげです。ウィーン秘伝のテクニックを教わりました。」
11月は、プラハの音楽仲間とモーツァルトのオペラ・アリア選集です。期待していますよ。
「プログラムについてはピアノを弾く高橋直史さんとも相談しました。指揮者の高橋さんは、今年1月からドイツのエルツゲビルゲ・オペラ劇場の音楽総監督になりました。モーツァルトもたくさんやっていますから、指揮者の視点も生かされた内容になったと思います。」
プラハは「フィガロの結婚」に喝采を贈り、「ドン・ジョヴァンニ」や「皇帝ティトの慈悲」を初演した、モーツァルトゆかりの街ですね。
「ウィーンとは一味違ったモーツァルト観があるようです。彼らはモーツァルトを自分たちの国の作曲家だと思っています。それだけ愛しているんですね。私も大好き。モーツァルトは、声楽のテクニックをチェンジさせるところで、わざと意地悪をして私たちを困らせたりするんです。どう、そこ歌うの大変でしょ、と微笑んでいるみたい。でも、そんなところがまた魅力的なんですよね。」
○インタビュー/奥田佳道(音楽評論家)
昨年、世界最難関のコンクールとして知られるミュンヘン国際音楽コンクールのヴァイオリン部門で第1位に輝いた岡崎慶輔(福岡出身、ベルリン在住)さんが早くも音楽祭に登場します。この伝統と格式を誇るコンクールのヴァイオリン部門で日本人が第1位を受賞したのは、21年ぶり2回目という快挙で、一躍世界の注目を集めました。
実は、岡崎さんは中学生(93年)の時に“北九州国際音楽祭TOTOクフモプライズ”を受賞し、その後も何度か北九州国際音楽祭に出演しています。岡崎さん自身「北九州国際音楽祭は、自分の原点です」と語るなど、音楽祭とは深い絆で結ばれています。
今回は、83年に同コンクールのピアノ部門で日本人で初めて第1位を受賞後、日本を代表するピアニストとして活躍中の伊藤恵さんとの初顔合わせ。王道を行くリサイタル・プログラムをお楽しみいただきます。
〈岡崎慶輔さんからのメッセージ〉
私のヨーロッパ留学の契機となった北九州国際音楽祭で、思い出のソナタを中心に感謝の気持を込めて、4曲を選びました。思い出が詰まった北九州国際音楽祭で、再び、素晴らしい響ホールでの演奏会が実現し、大変楽しみにしております。
ラ・クァルティーナは、NHK交響楽団のチェロ・セクションの精鋭4名によるアンサンブルです。日ごろ、オーケストラや室内楽、ソロ活動などで多忙な彼らが、このように全員揃うことは稀。コンサートの数も限られていますが、ひとたび開催されれば、チケットはすぐに完売という人気ぶり。CDもすべてが大好評です。
また、今回は、新進気鋭の若手作曲家 川島素晴さんが私たちの音楽祭のために今年メモリアルイヤーを迎えた大作曲家たちの名曲の数々を編曲して下さいました。この世界初演の響きにもご期待くださいますよう。
一期一会、究極のアンサンブルを心ゆくまでお楽しみ下さい。
2004年、グリーンパークでの熱い野外ライヴも記憶に新しい平野公崇さんが、信頼の仲間たちと音楽祭に帰ってきます。クラシックの名曲から現代音楽、即興、ジャズまで、幅広いフィールドを縦横無尽に駆け抜ける実力派サクソフォーン奏者の平野さんが、雅な『バッハ』に想いを寄せます。『サクソフォーン』と『バッハ』・・・・・一見、異色の組み合わせですが、実は、どちらも即興演奏と相思相愛。時空を超えたコラボレーションで、新たなバッハ像が浮かび上がります。必聴!
あの「ドラクエ」のコンサートが、遂に実現しました!しかも、作曲者のすぎやまこういちさんが、私たちのためにこのコンサートに駆けつけ、お話をしてくださいます。
東京メトロポリタン・ブラス・クインテットは、東京都交響楽団の首席奏者によって結成され、日本最高峰の金管五重奏団として多くのファンに愛されています。
今年2月に「ドラクエ」のCDもリリースし大好評。プログラム前半を彩る金管アンサンブルのスタンダード・ナンバーも楽しみで、これはほんとうに贅沢なコンサートです。いま「ドラクエ」に夢中の方も、昔懐かしく思い出される方も、ぜひ。
日本人を父に、ドイツ人を母にもつ若きチェリスト石坂団十郎。日本人の繊細な感性とドイツでの完璧な音楽教育があいまって、ミュンヘン国際音楽コンクールなど世界的なコンクールをすべて制してきた逸材です。その傑出したテクニックと音楽を愛してやまない姿勢は折り紙つき。今回のリサイタルの直前には、NHK音楽祭でN響と共演することも決まっています。使用する楽器は、日本音楽財団から貸与された、チェロとしては珍しいストラディヴァリウスの銘器。楽都ウィーンでのコンサートも絶賛を博した俊英の演奏を、どうぞ心ゆくまでお楽しみください。新しい息吹に酔いしれるひとときです。
モーツァルト生誕250年のメモリアルイヤーに、ジャズをベースに世界的に活躍する小曽根真が塩谷哲と登場します。今に生きるアマデウスのすべてをどうぞ。
フランスが世界に誇る名クラリネット奏者とその盟友の究極のデュオ・リサイタル。メイエのかぐわしい演奏と、ル・サージュの闊達なピアニズムに喝采を贈ることになるでしょう。
かつてパユを見出した神戸国際フルートコンクールで優勝した超新星・小山裕幾の音楽祭デビューです。慶応大学理工学部で学ぶ20歳の息吹を、100名の皆様と分かち合う至福のひととき。
ロマ(ジプシー)・ヴァイオリンの名門ラカトシュ家が驚異の技を披露します。古き良き時代の物悲しい旋律美も超絶技巧もお任せの名人集団。満場の喝采が彼らを熱くします。
今年も、子どもたちに音楽の素晴らしさを体験してもらうプログラムを行います。なお、非公開(参加校指定)のため、一般の方はご入場いただけません。あしからずご了承下さい。
●ラ・クァルティーナ・・・小学生の鑑賞教室1
●東京メトロポリタン・ブラス・クインテット・・・小学生の鑑賞教室2・3
●ウィーン セレナーデ・・・中学生の鑑賞教室1・2
●豊嶋起久子とプラハ国立オペラの仲間たち・・・中学生の鑑賞教室3
●平野公崇ほか・・・幼稚園の訪問コンサート
北九州芸術劇場プロデュース「錦鯉」
■北九州芸術劇場プロデュース 「錦鯉」 北九州公演
11月3日(祝・金)13:00 4日(土)13:00/18:00 5日(日)13:00
>>詳しくは北九州芸術劇場サイト公演情報へ
土田●今は、再演用に戯曲の見直しをしているところなんですが、再演って時間が経っているので冷静に見られていいですね。今回、役の構成を変えるので、変更具合を考えたり。もう絵は全部出来ています。もともとこの作品を書いたのは、娯楽作品を書きたいなと思ったことがありまして。いつも娯楽作品なつもりなんですが、僕の作品はなぜか“地味だ”と言われることが多いんです。だからそう言われないエンターテイメントなものを作ろうというのがありました。もうひとつは、テーマとして「周りの状況に翻弄される人々、ルールにコマの様に扱われる人々を書いてみよう」と。それで、ルールが一番厳しいのは何かと考えたら、ヤクザだなと(笑)。サラリーマンから急に、全く違うヤクザのルールに従わなければならない人たちが、翻弄されてさらに今度はヤクザでなくなったり。芝居の中にオセロが出てくるんです。オセロって、挟まれると色が変わるでしょ。同じように周りの状況が変わると自分もひっくり返る、コミカルで哀しい人間を描きたくて書きました。
―キャストは土田さんの意向ですよね。「この人がいい」という基準みたいなものは?
土田●僕は何をやる時でも性格重視なんです。普段どおりにフラットに付き合える人、それが基準だし、全てですね。今回のキャストの方々は皆とても良い方です。今回はヒロシくんが初舞台ということもありますし、それも目玉ですよね。
―有門さんは土田作品への出演は初めてですけれど、土田さんのお芝居はどうですか?
土田●僕が帰ってからしゃべる?(笑)
有門●ワハハ(笑)。実は、初めて観たのが「錦鯉」だったんです。すっげーおもしろい!っていうのと同時に、役者としては、大変そうだなとも思いましたね。役者のテンポや間が絶妙で、力量も問われるし、稽古で相当やり込まないとできないレベルだろうと。でも、挑戦してみたいとも思ってました。土田さんのお芝居って、他にはないタイプのものだし、率直に言って大好きです。漫才みたいなノリというか、でも名古屋弁のような方言が効いているのでるので漫才とは何か違う、妙に人を引き付けるというか。
―確かに戯曲は方言を使われてますね。
土田●僕は愛知出身なんです。ヤクザって関西弁にするとハマり過ぎ、標準語だとVシネマになっちゃう。だからどこでもないニュアンスを出したくて使いました。でも、アクセントは稽古場の中で、面白い人に合わせる感じですよ。今回は出演者の活躍する分野がバラバラなんで、全員の共通したトーンを探って行こうと思ってます。その基準を作るところは慎重にいきたいですね。
―今回、演出に関して特に重心を置きたところは?
土田●僕はみんなで築き上げる”笑い“が非常に好き。だから、役者さんがそれぞれに自分独自の表現をしていたら全体は成り立たない。サッカーに例えれば、シュートの機会はみんなに与えるから、守る時はちゃんと守って芝居を成立させたいという感じ。役者が作品ときちんと向き合い集中することでそれぞれの存在が浮き出てくるようにしたいな、というのが、今回の僕の仕事です。
―では、役者の有門さんにとって、稽古に臨むとき気をつけることは?
有門●僕は逆に、稽古ではとりあえずどこまで出られるか探ってみて、「ここまでやると芝居が崩壊するんだな」と理解するタイプですね。稽古でやってないと本番で出過ぎちゃう。飽きるまで稽古して、その中で飽きないものと必要なものを残すようにしますね。
土田●それ事前に聞いといてよかったよ。「いきなり何だよ?」とか思っちゃうから(笑)
―北九州に劇場が出来たりと、この数年のまちの変化をどう思いますか?
有門●北九州でもジャンルの違ういろんな芝居が観られるようになったのは嬉しいですね。それに、劇場に来る最初の理由が「有名人が出てるから」ということだとしても、この北九州でたくさんの人が劇場に足を運んでいる。北九州にもお芝居に興味がある人がこんなにたくさんいるというのは、正直驚きでした。今回、僕はこういう大きな作品に出させてもらえる訳ですけど、出るからには「錦鯉」を観に来たお客さんに「北九州にもああいう役者がいるのか」と思ってもらいたいですね。「錦鯉」のお客さんが、飛ぶ劇場や他の地元の劇団を観に行くきっかけになりたい。今回は役者としても演劇人としても貴重な経験をさせてもらえる機会だし、次につなげていきたいです。
土田●”まち“ってことで言えば、ここに限ったことでないんですが、考えなしに町をきれいにしちゃうと日本の風景は全部似てくる。駅前とかがどこに行っても同じなのはいやですね。リバーウォークの辺りも妙にきれいだから、ここで作るものがキチンとしていないとその周りも空虚になる。まちの”売り“を作るためには文化はとても大切だと思います。だから、ここから一生懸命発信しなければいけない。そしてそれが土地のアイデンティティで制限されずに、どこでも変わらず受け入れられるものになることを、僕は意識してます。会話や演出を徹底的に追求することで普遍につながるようなもの、世界につながるようなもの。演劇を通じて、世界中で自分の芝居をやりたいなというのがありますね。
取材・文/豆柴屋(有延淑・橋口勝吉) 撮影/藤本彦
あらすじ●舞台はあるさびれたヤクザの組事務所。もともとサラリーマンだった男が新しく組長になったのをきっかけに事件が起こっていく。「ルールとは何か」をテーマに、「爪の先までいっぱいになりたい」と望む男たちの物語。
近年、京都で活動する劇作家が多方面から注目を集めている中で、その京都を拠点に、普通の人々の生活からにじむ可笑しみや哀しさをセンスのよい会話劇で描く劇作家・演出家 土田英生さん。最近は、舞台の作・演出はもちろん、映画やTVドラマの脚本、エッセイなども手がけ、多くの熱い視線を受けている創り手のひとりです。彼の代表作が彼自身の新しい演出でどのように仕上がるのか、見逃せません。
今回の「錦鯉」は、北九州以外でも、大阪や東京、松本などでも公演します。(東京公演は銀河劇場のオープニングラインナップを飾る一作でもあります。)初日の幕開けは北九州からなので、全国に先駆けてこの話題作を観ることができるのです。
◎大阪公演 11/7(火)・8(水)
イオン化粧品 シアターBRAVA!
◎東京公演 11/14(火)〜23日(祝・木)
天王洲 銀河劇場
◎松本公演 11/29(水)・30(木)
まつもと市民芸術館 実験劇場
土田アンテナと土田テレビというものがあると思う。土田アンテナは世界中の微弱なオモロ電波をキャッチし、土田テレビはそれを1級エンターテイメントにして映し出す。普通の人だったら見逃しちゃうような可笑しさ悲しさ切なさをよくもまあ何気なく舞台に上げちゃうもんだと感心するのが土田さんのお芝居。「錦鯉」は誰も観たことがない、けれどどこかに居そうな可笑しいヤクザがそこに居るに違いない。
まだ見ぬ劇団が全国津々浦々からわんさかやってくる、今年の北九州演劇祭。なかでも、自主参加公演・コンペティション部門参加の劇団は”実力派“として選抜されているだけに、どれも見応えのある作品を引っ提げてくるに違いない。
はな的注目株は、モンキー・ロード(東京)の「えんかえれじい」。日本演劇界の雄、北村想氏が書き下ろした新作は「演歌」がキーワードになっていて、劇中歌もすべて北村氏作詞のオリジナルだ。SF演劇作家を公言する演出担当の大西一郎氏は「演歌と聞いて思い浮かんだのは、『キル・ビル』の雪のシーンの決闘なのであった」とユニークなコメントを寄せていたが、昨年、同じく北村氏の新作で落語をテーマにした「らくだ論」を、洗練されたエンタテインメント作品へと見事に演出した彼だけあって、周囲の期待はかなり大きい。また、本番当日の幕間には、なんと北村想氏がゲスト出演する予定。果たして、どんな製作秘話が飛び出すのか、乞うご期待!
>> 12月2日(土)・3日(日) モンキーロード「えんかえれじい」公演情報
平田オリザ氏の青年団ファン必見なのが、弘前劇場を昨年退団した畑澤聖悟氏率いる渡辺源四郎商店(青森)。青森の風土が溶け込んだ味わい深い舞台が魅力。青年団から芸術・制作面でバックアップを受け、青年団の俳優も二名出演、そのクオリティの高さは平田氏のお墨付き。今回上演する代表作「背中から四十分」は近松の心中物にモチーフを得たものだが、畑澤氏の興味は心中ではなく、「人が人を癒すということはどういうことなのか」だという。東北地方の場末の温泉地にある海沿いのホテル。人生のどん底に落ちた、一人の中年男と女性マッサージ師の物語に注目を。
>> 10月14日(土)・15日(日 渡辺源四郎商店「背中から四十分」公演情報
“細やかな演劇”で定評があるのは、劇団ジャブジャブサーキット(岐阜)。「歪みたがる隊列」では、ポップな劇団名のイメージに反して、精神医療施設の入所者とその周囲の人々の姿を描く。重い題材ながらも、作・演出のはせひろいち氏が得意とする心理ミステリーと、ユーモアのある会話で綴られる物語は、一見の価値があるだろう。また、近頃ちまたに溢れかえっている”演劇療法“のような類への疑問と警鐘も隠れテーマとなっているから興味深いところ。
>> 10月21日(土)・22日(日) 劇団ジャブジャブサーキット「歪みたがる隊列」公演情報
一方、粗削りだが若さみなぎるパワー全開さが売りの田上パル(東京)、「報われません、勝つまでは」。今年二月、桜美林大学卒業を前に、熊本出身の田上豊氏がほとんど九州出身者で結成した劇団の旗揚げ作品で、全編が熊本弁。高校のハンドボール部の部室の中で、”こんな奴いたいた“と思わせてくれる男子学生たちが描くリアルな青春群像劇。実際にハンドボール部員だった田上氏の体験を色濃く反映させているので、観客は男たち のバトルをリアリティ満点に目の当たりにするだろう。
>> 10月28日(土)・29日(日) 田上パル「報われません、勝つまでは」公演情報
コンペティション部門特別枠で参加する夢の工場(北九州)は、新作「誰もいなくなる」を発表。演劇関係 いすと校舎から守田慎之介を客演に迎え、日常の中にある“喪失”や“痛み”を静かな目で追いかける。今年で二十周年を迎える、当劇団代表の大塚恵美子氏いわく「北九州は、根っこのところに、社会の流れに安易に迎合することのない”ものづくりへのこだわり“があるのを感じる街」だという。北九州で産声を上げ、地元での作品作りにこだわってきた夢の工場の渾身の新作に興味津々だ。
>> 11/23[祝・木]〜25[土] 劇団夢の工場「誰もいなくなる」公演情報
最後に、南河内万歳一座の内藤裕敬氏を作・演出に迎える市民参加公演・福北演劇ネットワーク公演「雨かしら」を紹介。これは北九州市、福岡市、行橋市で活動する劇団と一般公募で選ばれた市民による合同公演。ヘレン・ケラーの「奇跡の人」を稽古中の劇団と、ある家族の日常をリンクさせながら、人とのコミュニケーションがうまくとれなくなった現代社会を映し出す。地元の役 者と市民との交流を通じて、さらに九州の演劇界を盛り上げようという作品だけに、どんな舞台に仕上がるのか楽しみもひとしお。今年の演劇祭の幕を華々しく閉じる大トリ公演を絶対見逃すわけにはいかない!
>> 12/15(金)〜17(日) 福北演劇ネットワーク「雨かしら」公演情報
執筆:はな / 某タウン誌の演劇担当を経て、現在は演劇関係のパンフレット執筆や、公共ホールのイベント企画等に携わる。昨年より北九州の情報誌「おいらの街」で演劇コラム「ライター・はなの演劇まんだら」を連載中。趣味は能。
>> 11/4(土)・5(日) 劇団青い鳥「もろびとこぞりて Ver.2,3」公演情報
日本演劇界に名を刻み、今なお数々の名作を生み出している劇作家、北村想氏。氏が塾長である「伊丹想流私塾」で5年師範を務めていた岩崎正裕氏にコメントを寄せてもらった。
劇作家・演出家 岩崎正裕
>> 07年1月岩崎演出「冒険王」再演 公演情報北村想◎きたむらそう/52年滋賀県生まれ名古屋市在住。劇団「TPO師★団」にて79年、伝説の作品「寿歌」を初演(作・演出)。翌年、同作品は東京で上演され、全国的に注目を浴びる。以降、「星'86」、「プロジェクト・ナビ」の代表を務め、多くの作品を発表。84年、「十一人の少年」で岸田國士戯曲賞、88年紀伊国屋演劇賞他受賞。03年、プロジェクト・ナビを終了。以後は劇団という形にとらわれず、戯曲、小説の執筆に取り組む。
<第14回北九州演劇祭そのほか>
>> 10/7(土)〜9(祝・月) 第4回北九州パントマイムフェスティバル公演情報
など詳しくは第14回北九州演劇祭サイトへ
毎日華やかな世界が生まれ、熱気・歓喜・興奮・感動に包まれる劇場にも、静かな空気が「こんにちは」している時がある。そのひとつが、次の催しがやってくる間の日。
だがしか〜し!静かだからと言って、静まり返っているわけではなかった。劇場のスタッフさん達は、静かに密かに?この日も黙々と仕事をしていたのであります。
「催しのない日にでも見学にお邪魔しま〜す。」と、軽率な発言をした自分の阿呆面を思い出すと恥ずかしい限りです。催しのない日=劇場もスタッフも「お休み」ではないのですな。
さて、この日行われていたのは、劇場の総点検。劇場本体の様々な箇所の御機嫌(機械の調子具合等)を伺う大切な時間でありました。その貴重な時間にお邪魔してしまった自分に失笑。そんな自分に対し、素敵な笑顔で応対していただき、さらには、SFの世界にワープしたような舞台装置を体感させていただいたスタッフの皆さんに感謝&陳謝。
機材を整理したり、機構(舞台装置等)を点検・修理したり、いつかの時に備えオリジナルの機材やツールを作ったり、次の催しの打合せをしたり。様々な面で工夫しながら、いつも使いやすくクリエイティブな場所であるように、皆が活き活きと「劇場のため」に動いていた。「劇場は生きている。」と痛感。劇場は生きモノであり、活きモノなんですなぁ。
〈今回のナン・コレ〉
■奈落(ならく)…「奈落の底まで突き落としてやるわ、お〜っほっほっほっ」ちょっと鳥肌モノのこの言葉。良い意味で使われる言葉ではないが、舞台の奈落は決して地獄ではない。せり出しの装置があり、通路にもなるかなり広い地下室のような空間が広がっている。一体何人乗れちゃうの?ってくらい広い搬入エレベーターも印象的。
■舞台の床の修復…これは、自分んちの床や柱にも使えると思った!舞台セットの組立時に釘が打たれ、撤去時に床に残る釘の跡。穴だらけになった床の穴の大きさにあわせて、ボンドをつけたつまようじや割箸を挿し込み、突き出てる部分はノコギリ等でスライドカット。修復完了!
■最新機器と人間の力の融合…最新の大がかりな舞台装置があるかと思えば、人の力で微妙に調整していく手動の装置もあり、それらがイイ感じに舞台の天地左右で出番を待っていた。
■座席…消える座席があるって知ってました?
文・イラスト トミタユキコ
コンサートを聴いて感動するパターンには種々あると思いますが、予想をはるかに上回る結果に驚き、未知の発見に感動したことはありませんか?
例えば、知名度は高くないけれど他から勧められるので試しに聴いてみたところ、その演奏レベル、演奏姿勢が素晴らしく、他に先駆けて世界一流アーティストを発見した喜びで感動する場合です。
北九州国際音楽祭ではまさしくこの様な感動を皆様にお届けすることも一つの基本理念としています。世界が沸き立つ人気アーティストの演奏を聴くことも大きな感動には違いありませんが、今まで名前も知らなかった、今後世界の檜舞台での活躍を予感させる非凡な才能を持ったアーティストの演奏に遭遇した場合の感動もすばらしいものです。
昨年の音楽祭に出演したヴァイオリニスト”南紫音さん“は当時無名の高校一年生でしたが、コンサートを聴かれたお客様の反応はまさしくそうでした。
コンサートが始まる前は、ちょっと試しに、人に誘われたから来た、という雰囲気も一部漂っていたように思えましたが、コンサート終了後には全く違った感じになっていました。演奏の素晴らしさ、地元にこんな逸材がいたかとの驚きで多くの方が興奮されて、私は何人ものお客様から”本当に驚いた。南さんのコンサートを音楽祭で企画してくれてありがとう“と言われた場面を今でもはっきり覚えています。
同年の音楽祭で行われた庄司紗矢香、ブルーノ・レオナルド・ゲルバー、篠崎史紀等世界一流の実力を備えた人気アーティストの公演も大盛況で多くのお客様が喜ばれていたと思いますが、南さんの場合は突然宝物でも見つけたような喜びだったように思えます。その直後、彼女は世界四大コンクールのひとつロン・ティボー国際音楽コンクールで第2位を獲得するという快挙を成し遂げ、今では国内の主要オーケストラや一流ソリストとの共演など、世界に大きく羽ばたこうとされています。音楽祭のコンサートで感動されたお客様は今でも親しみを持たれ南さんの活躍を楽しみにされているのではないでしょうか。これも新発見ならではの楽しみですね。
(文 北九州国際音楽祭実行委員会事務局K)
■ダンダンブエノさんの舞台、初めて拝見いたしました。観るほどにどんどん引き込まれ、あっという間の時間でした。青年のもつ特有の気持ちというか、抱えているものとか、だけど居心地のいい人たちと一緒に夢中で何かやっていればそんなのどうでもよくなったりすることなど、すごく共感できました。いつの時代でも若者はみんな同じなんだなと思いました。
◎大分市 ワッツさん/劇団 ダンダンブエノ「トリデ〜砦」
■とても完成度の高いよいものを見せてもらい、感激しました。亡くなった父のことを思い出し、「思い出の国」のところでは思わず涙が出そうになりました。自分自身の気持ちをこの「青い鳥」で整理できたように思います。また、一緒に参加しているようでもあり楽しかったです。
◎下関市 青木典子さん/合唱物語「わたしの青い鳥2006」
◎7月15日・土曜日・19:00開演 「市原多朗・緑川まり デュオリサイタル」のアンケートより)
●声量がすごい。このホールがこんなにいいとは知りませんでした。
●市原さんの歌を生で聴けて感動しました。森島さんのピアノもすばらしかったです。アンコールにたっぷりと応えて下さってありがとうございました。
●汚れた心がきれいになったような気がします。
●お2人とも声が豊かで、語りかけるような歌声が印象的でした。特に、高音や強音のところは圧倒されました。ピアノの美しい響きも素敵でした。流れるような上品な音色に魅了されました。
●3人の実力はもちろんですが、安いチケット代・アンコールのサービスのすごさに頭が下がります。ありがとうございました。
●プロの方の演奏を身近で聴けた。とても声が透明感にあふれていて感動した。乾杯の歌、最高でした!
●市原さんの声はすばらしかった。何曲もアンコールをありがとうございました。すばらしくて涙が出ました。
●日本人でこれほどのテノールを聴けるとは思いませんでした。ブラボー。
●こんなにすばらしく、楽しかったコンサートは初めて。今までの演奏会でベストだ!市原氏を再び呼んでいただきたい。
●二回分くらい聴かせていただきました。ずいぶん得した気分です。すばらしかった。
舞台のご感想をお寄せください。
Eメール info@kicpac.org
郵便
〒803-0812 北九州市小倉北区室町1丁目1-1-11
リバーウォーク北九州5階 芸術文化情報センター内
「ステージ通信Q」感想係
次号掲載分締切り=11月末日
*郵便番号・住所・電話番号・氏名・ペンネームを明記の上お送りください。
*掲載の際、編集部で文章をまとめさせていただく場合もあります。
<北九州芸術劇場>
[演劇]
■10/13(金)〜15(日) イッセー尾形ひとり芝居「イッセー尾形のとまらない生活2006in秋の小倉」
■11/18(土)・19(日) 奇跡の人
■1/17(水)〜21(日) 北九州芸術劇場プロデュース「冒険王07」
■2/10(土)・11(日) 提携公演 南河内万歳一座「百物語」
■3/1(木)〜4(日) 地獄八景・・浮世百景
[ミュージカル]
■2/22(木)〜25(日) ブロードウェイ・ミュージカル「スウィーニー・トッド」〜フリート街の悪魔の理髪師〜
[ダンス]
■2/3(土)・4(日) 山海塾公演「金柑少年」
[ドラマリーディング]
■11/18(土)・19(日) 北九州芸術劇場リーディングセッション vol.7 「マクベス」
[参加者募集]
■11/18(土)・19(日) 飛び石プロジェクト ジェニー・シーレイ演劇ワークショップ
■10/14(土)〜3/25 シアターラボ07■10/21(土)・22(日) 劇場塾2006後期 俳優実践講座2 「動ける俳優になるためのドラマ・レッスン」
■12月 北九州芸術劇場バックステージツアー(予定)
[CHOICE・伝統芸能]
■3/7 受託事業 人形浄瑠璃「文楽」 戸畑市民会館大ホール
<響ホールほか音楽事業>
■10/9(祝・月) 北九州国際交流ウィーク2006参加事業 チャボロ・シュミット〜もうひとつのジャズ、ジプシースウィングの世界〜
■12/16(土) 2006響シリーズ第3弾 響ホールのクリスマス
■1/28(日) 2006響シリーズ第4弾 響ホール室内合奏団コンサート
■2/13(火) 2006世界のクラシックシリーズ レ・ヴァン・フランセ
■2/24(土) 2006響シリーズ第5弾 樫本大進 無伴奏ヴァイオリン
[CHOICE]
■12/22(金) 第九の夕べ 九州交響楽団北九州巡回演奏会 九州厚生年金会館
■1/6(土) 九州交響楽団 2007北九州ニューイヤーコンサート 北九州芸術劇場大ホール
■12/15(金) パイプオルガンコンサート 九州厚生年金会館
■12/17(日) 北九州市少年少女合唱団第32回定期演奏会 北九州芸術劇場大ホール