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[戯曲講座] ツクダ式戯曲講座
第一回（5月13日(土）14:00〜18:00）

今回講師を務めるのは平成17年度岸田國士戯曲賞を「ぬけがら」で受賞した佃典彦氏です。
初めに、担当の泊さんより佃氏の紹介がありました。
そして、佃氏より自己紹介です。
佃氏の「僕の本を読んだことのある人はいる？」という質問では何人かの手が挙がり、図書館で借りて読んだという受講生もいました。
（北九州芸術劇場　芸術文化情報センター＜リバーウォーク５階＞にあるライブラリーでも佃氏の戯曲「土管」「ＫＡＮ−ＫＡＮ男」「ぬけがら」は近日入荷予定です。）

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↑泊さんに紹介され、「なんだか緊張するなあ〜。」と佃氏。（写真左）

佃氏は「僕は不条理演劇の系譜に入る作家であると言われている（また自分でもそう思っている）けれど、自分はあくまで“職人”だ。」と言われました。
“職人”とは、つまり依頼さえあれば何でも書くからなのだとか。
佃氏と同じ名古屋の劇作家に天野天街氏や北村想氏がいるけれど、彼らは“天才”で、自分は“天才”を挫折したのだとも言われました。
佃氏は30歳の時に十二指腸潰瘍を患い、「“天才”はこういう時はたいてい脳にくるのに、俺は胃にくるなんてダメだ。まるで中間管理職みたいじゃないか。」と思って“天才”を諦めたそうです。
そして、“職人”と自称するくらいいろいろなものを書いて来た佃氏ですが、基本は１シュチュエーション作家だと言われました。
佃氏の代表的な戯曲のほとんどが１シュチュエーションということです。
1シチュエーションでだいたいのものは書けてしまうという話をされ、今回みんなが1時間の戯曲を書く上でのアドバイスとしても、是非１シチュエーションものを書いて欲しいと言われていました。

実は、この講座申込みに関しては書類審査があり、ここに参加する受講生はその選考を突破した精鋭陣（？）ということになります。
佃氏も提出された課題を見て、なかなかレベルが高いと思ったそうです。
中には、「講座に参加しなくても1時間ものくらい書けるんじゃないの？」という人も。
講座から生まれる優秀な２〜３作品は、この秋に演出家の手を経て「リーディング公演」というかたちで上演する予定なので、佃氏の言葉に早くも期待が膨らみます。

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↑佃氏が「昨日の朝まで書いていたやつ！」と配った
流山児★事務所の7月公演（東京）のチラシを熱心に見る受講生。

講義に入る前に、まずは自分がどんな作品を書く作家なのか知っておいてもらった方がいいだろうと、佃氏は自身の書かれたいくつかの戯曲の話をしてくれました。
「土管」・・・部屋（この世）と砂地（あの世）という別々の空間が土管でつながっているという話。
「ヨーゼフという名前の亀」・・・舞台はアパートの1室。部屋の屋根裏にはヨーゼフという名前の亀が飼われていて、住人である男が甲斐甲斐しく世話をしているうちにその亀は部屋と同じくらいに大きく成長してしまっているという話。
「KAN-KAN男」・・・真夜中、踏み切りに喪服を着て箸とビニール袋を持った男が二人居る。彼らの仕事は轢死体の部品を探し組み立てること。そんなKAN-KAN（踏み切りの音から）男たちの話。
「カレー屋の女」・・・佃氏曰く、安部公房の「砂の女」のパクリ！？ある島には（男性に対してのみ）猛毒を持つ蚊が生息していて、男はみな蚊にやられて死んでしまい今では女しかいない。そこに何も知らないカップルがやって来る。その男を島に留めようと島の女たちは・・・。
「ぬけがら」・・・私戯曲。県営住宅の1室が舞台。妻に愛想を尽かされた男（40歳）と認知症の父（80歳）が共同生活することになったある日のこと、父親が突然ぬけがらに。そこにいた父親は20歳も若くなっていて、その後も父親は蝉の脱皮のように繰り返しぬけがらを脱いでどんどん若くなっていく話。
以上、佃氏の戯曲はあっと驚くようなアイデアが満載でどれも本当に面白く、ストーリーを聞くだけでも十分楽しめます。
佃氏も、「こうやって話を聞いていると面白そうだなと思うだろうけど、実際は結果があまりおもしろくないものもあるんだよね。まあ、岸田（戯曲賞）もアイデアでもらったようなものだから。（笑）」と笑っていました。

佃氏は「僕たちが戯曲を書き始めた頃、このような戯曲講座はなかったので見よう見まねで書いて来た。つまり、戯曲は誰にでも書ける。」と言われました。
例えば、医者や伝統職人は見よう見まねではできないけれど、戯曲を書くというのはなんとなくこんな風に・・・と見よう見まねでも出来るというのです。
なので、受講生のみんなにも難しく考えないでどんどん挑戦して欲しいということでした。

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↑ホワイトボードを使い図を描いて分かりやすく説明。

タイトルが決まって、いつ（時間）、どこ（場所）、だれ（登場人物）が決まれば作品が出来たのも同じだと佃氏は言います。
佃氏はホワイトボードに地面を現す一直線を描き、その一点をタイトルと表し、その底に何かが広がっている絵を描きました。
「タイトルを決めた時点で、その作品は世の中（地面下）に存在する。それをいかに掘り出すか？まず、当たりをつけて掘り出し始める。トンチンカンなところから掘っても、いくら掘っても出てこない。その時は掘り直し！作品がうまく書けたときはうまく掘り出せたと思っていい。この感覚が大事！！」と言われました。
また、夏目漱石の小説「夢十夜」の中の話「仁王を木彫りで彫るときは鑿で眉や鼻を作っていくのではなく、眉や鼻が木の中に埋まっているのを鑿や槌を使って掘り出すまでだ（仁王はすでに丸太ん棒の中にある）。」を引き合いに出し、こうやって思うと戯曲も何も無いところから作り出すのではないから気楽になると話されました。
そういった作り方をしているので、佃氏はこれまでもあらかじめテーマなど考えたことがなく、書き終わった後で「ああ、そうだったのか。」と思うことも多いそうです。
そして、「プロットらしいプロットも作ったことはないけど、全く何もなしに書き始めることもない。毎回、ノートに“いつ”“どこ”“だれ”を整理して、よく絵で登場人物の相関図を描く。」とも言われました。

台本が1時間半〜2時間のものを書く上で、最初の2ブロック（20分）くらいで大まかな状況は掴ませておきたいということです。
最初のうちに、�‐�況・�◆陛仂貎擁�の）関係・��（作者または登場人物の）欲求を説明にならずにうまく押えておくことが大事です。
「5分程度（長くて20分）の話であればそれだけでも成り立つ。でも、長いものを書く時には、途中、１つ２つ事件が起こり欲求が変わった方が良い。3時間4時間の大作であろうが、この繰り返し。」だと。
という訳で、佃氏によると「基本的には15分のものが書けたら1時間〜2時間のものは大して変わらない＝書ける。」ということでした。

一通り佃氏からのお話があった後は、みんなからの質問タイムとなります。
佃氏のお話の中で言われた「タイトル」に関するものが多く、Q1「タイトルはどうしても最初につけたほうがいいのか？」やQ2「タイトルを掘り間違えたことはあるか？」など。
Q1の回答として、佃氏は毎回劇団の制作から早めにタイトルを出すよう（助成金の申請等もあり）言われているという事情もあって、一番初めにつけるようにしているということです。
佃氏自身、短い文（タイトルはもちろん、キャッチコピーなども）が苦手だそうで、タイトルを決める時も苦戦している様子。
けれども、やはり何かしら最初に無理にでも決めた方が話が進んでいくことも多いし、その言葉を選んだということに意味があり、（先ほど絵で説明したように）すでに作品は存在していると言われました。
「結局書いた内容が初めに付けたタイトルと全然違うこともあるかもしれないけれど、それはそれでよい。別役先生の『春夏秋冬』でも書いてあったし。（笑）」ということです。
Q2に対しては「もちろんある。気取ったことを考えているとダメなんだよね。そんな時は内容も悪い。」という答えでした。

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↑課題を発表する受講生たち。

休憩の後は、講座の申込みの際に提出したそれぞれの課題の発表が行われました。
まずは自分の書いてきた戯曲を右隣の人に渡します。
そして、手元に届いた作品を自分が演出して芝居を作ってみようというのです。
もちろんこのメンバーの中で役者もやります。
それぞれ手元にまわってきた戯曲をまず黙読し、演出の立場として登場人物それぞれの欲求と状況をノートに整理するよう指示がありました。

いよいよ一人目の受講生から開始です。
立って一通り読んだ後は、演出が入り動きを付けての発表タイム。
役者をやった受講生の演技力も手伝って（？）、文字だけで読んだ時よりも動きが加わることでずいぶんと分かりやすく戯曲のイメージが膨らみます。
発表の後で作者に感想を聞くと、自分の想定していた状況と少し違うところもあってなかなか思い通りにはいかないようです。
みんなの意見も聞いてみると、なるほどと思う解釈もあれば、深読みしすぎなのでは？と思うものもあったりと様々な受け取り方がありました。
今回は時間が少なく2名の発表に留まりましたが、次回の講義では残りの全員分（8名）を発表する予定です。
佃氏からもレベルが高いと言われただけに、どんな課題が発表されるのかとても楽しみです。


Posted by at 07:07 PM