March 29, 2007

死を巡る噂
[2:崩壊する日々]

芥川の死を巡っては、こんな奇妙な噂がある。

芥川は晩年、「人を殺したかしら?」という奇妙なタイトルの、ドッペルゲンガーに関する作品に取り組んでいた。
夢の中で人殺しをしてしまった画家の話で、もしかしたら夢ではなく実際に人を殺したかもしれないと怯えるといった筋なのだが、芥川は、この原稿の出来を良しとしていなかった。

ある日、編集者がやってきて、この書きかけの原稿を見つける。
手に取ろうとすると、芥川は「やめろ!その原稿に触るな!」と叫び、編集者の目の前で表紙に朱の×を書き、ぐちゃぐちゃにして破棄してしまった。
その姿に、編集者は呆気に取られていたという。

しばらくして、芥川は服毒自殺をしてしまう。
その傍らには、以前破棄したはずの「人を殺したかしら?」の原稿が、完全な状態で置かれていた。
確かに、編集者の目の前で、朱の×をつけ、破棄したはずなのに。

何故完全な状態の原稿があるのか?
それは誰が書いたのか?
いつ書いたのか?
芥川が晩年脅かされていたという「もうひとりの自分」が書いたとでもいうのか?

ドッペルゲンガーを題材とした作品を巡る噂なだけに、謎はいよいよ深まるばかり。

つづく

Posted by 藤本瑞樹 at March 29, 2007 11:08 PM