2006年04月10日

藤本瑞樹から見た「No Good Tales」
[1:愛と平和と藤本瑞樹]

「公演前」の更新としては、これが最後になります。
(最終回というわけではありません。あと3回くらいあります)
公演前の最後ということなので、ちょっと長い話をひとつ。

ウチの本棚には、背表紙が日焼けして色あせた本が何冊もあります。
箱に入った辞書みたいなもの(家庭の医学っぽいのとか広辞苑とか)やらムック本やらマンガの本やら文庫やらむかしの雑誌やら。
その上には64色のクーピー(未使用)とかコンサートのパンフとか、とにかくもう「これどうすりゃいいの?」みたいなものも雑然と置いてあります。

そんな整理されてない本棚の中に、ある1冊のマンガの本があります。
タイトルは確か「No Good Tales」といったような気がします。
うろ覚えですけど、そんな感じの名前です。
まあ、いま本棚を見ればすぐにでも正確なタイトルはわかるんですけど。

今回の庭の公演のタイトルは、そのうろ覚えのタイトルからつけることにしました。

作者はちょっとここに書くのも恥ずかしい名前(ネーミングセンスがないのです)なので伏せますが、このマンガは僕を幸せにしてくれました。

このマンガに出会ったのは中学3年くらいのときだったと思います。
高校受験とかいうつまらないハードルがあって、つまんないなと思いながらも超えなきゃいけないジレンマに苛々していた時期です。
そういう時期っていうのはまあとにかく何か確かなものが欲しいと思うもので。
なんだかもう毎日が「絶対的に幸せな道があるんなら示してよ!」みたいな感じだったと思います。
……今思い返すと恥ずかしいな。
思春期っていうのは、往々にして恥ずかしいものです。

あれから僕らも大人になって、絶対的に幸せな道なんかないってことは、身にしみてわかってきました。
でもそのおかげでふとしたことでも幸せと思えるようになった気がします。
幸せは僕らをどんどんどんどん涙もろくしていきました。

そういうことをいちばん初めに教えてくれたのがこの「No Good Tales」(ってタイトルだと思う)というマンガでした。

中身は大したことのない、くだらない作り話の寄せ集めです。
短編集、といった感じでしょうか。
観たことがある方ならわかっていただけると思うのですが、庭の公演みたいな、あんな感じです。

そのマンガの「笑い」に関して言えば、それはもうまさしく僕のツボで、くだらないなあと思いながらもゲラゲラ笑っていました。
くだらないながらも漠然としたストーリーはあって、たまにじーんときたりしました。
それを読んでいる間、中3の藤本少年は「絶対的に幸せ」とか高校受験とか、そういうつまんないことを考えてはいなかったと思います。

そのマンガの最終話は、とても愛情のあるものでした。

読み終えたときに、なにかがわかった気がしました。
ああ、つまり、そういうことなんだなあ、と。
なんだか人生において大切なことを教わったような気がしました。

そのマンガを読んでいる間じゅう、中3の藤本少年は幸せでした。
そしてそのマンガは確かに、少なくとも僕にとっては、愛があふれていました。

つまりはそういうことです。

今度の庭の公演は、僕に人生を教えてくれた、「No Good Tales」(っていうタイトルだと思われるマンガ)へのオマージュです。
そこにはきっと愛も平和もなんでもあると信じています。


……。


なんてのもまあ全部、くだらない作り話なんですけどね。

庭の新作は正真正銘オリジナルです。
ひいひい言いながら頑張って書きました。

愛にあふれた新作とともに、今週末、劇場でお待ちしております。

Posted by 藤本瑞樹 at 2006年04月10日 12:22
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