2006年04月14日

第8回 のこされ劇場≡がつくる『つる』
[3:鶴を折る日々 by 市原幹也]

さて、第8回の連載のテーマは「のこされ劇場≡がつくる『つる』」。
この作品が作られていった過程や、見どころなどを紹介しようと思います。

今回の公演のための稽古は、今年1月、正月が明けてからスタートしました。
その時にはまだ「鶴の恩返し」には出会っておらず、台本となるテキストを探している最中でした。
しかし、ぼくにはひとつ挑戦したいことが以前からあり、まずはそこから始めようと思っていました。
そのステップのために、まず、能「葵上」が現代語訳された台本の一部を使い、地謡をパフォーマンス化する稽古を開始しました。
およそ、一ヶ月間。
セリフを「謡う」グループと、セリフで「舞う」グループに分かれて稽古は進みます。
そして、それをお互いに合わせる稽古を経て、ひとつのパフォーマンスに仕上げました。
出来上がったその12分間のパフォーマンスを見た時、同時にぼくはこれからの作品づくりの光明を見たような気がしました。

そうこうしているうちに、ぼくは「夕鶴」(作・木下順二)に出会い、それを経て「鶴の恩返し」に出会います。
そして、様々な下調べ・検証を経て、物語のなかからそとへ大きくイメージを膨らまし、この作品を「愛と平和」にぶつけてみようと決めます。

「鶴の恩返し」は、時代を超え人々から愛され、口伝されてきた民話です。
その物語を提示する、つまり「語る」ときに、上記の方法を利用しようと思いました。
こうして、のこされ劇場≡がつくる「つる」には、構成上ふたつのパートが生まれました。
ひとつは、ドラマによって物語を進行させる、通称「ドラマパート」。
もうひとつは、語りと舞いによって物語を進行させる、通称「語り舞いパート」。
「つる」は、このふたつのパートが混在し、関与し合い、進んで行きます。

稽古場では、ふたつのパートが別々に稽古するところから始まるのです。
「語り舞いパート」においては、さらにそのなかで「語り」チームと「舞い」チームに細分化されます。
今回「語り」リーダーとして、沖田みやこ。
そして「舞い」リーダーとして、今村貴子。
両役者に、それぞれのパートの構成の指揮を取ってもらいました。
ぼくから、ベースとなるセリフと同時に「こんな感じで。」とイメージを渡し、そこからチームでの創作開始。
メンバーひとりひとりがイメージを出し合い、ディスカッションしながら試行錯誤していきます。
最初から最後まで、すべて自分達で作ってもらいました。
ぼくは、その間はその稽古場を離れ、「ドラマパート」に登場する役者と稽古をしていたりします。
「ドラマパート」の役者には、ぼくが構成した「台本のようなもの」が渡され、それをもとに稽古するのですが、別パートとの兼ね合いや、稽古中の新しい発見もあり、一度稽古場で検証したのち、台本が変化しつつ決定していきます。

このように生まれてくる「つる 〜あの日飛び去った夕鶴によせて〜」。
気になるその見どころは?
と言っても、この連載「鶴を折る日々」を読んでくださっているみなさんは、気になることがたくさんあるかと思います。
敢えて列挙せずに、ぼくからは一点。

みなさんは、きっと「鶴の恩返し」のストーリーをご存知のはずです。
なので、ストーリーを追うために演劇を観るのではなく、目の前で起きていることから、みなさんにもたくさんのイメージを喚起していただきたいと思っています。
この作品は「鶴の恩返し」などの物語から、心に焼きつく鮮やかなイメージの抽出、あわせて、ストーリーとセリフのコラージュから、ひとつの物語を成立させています。
そこに、みなさんのイメージを重ねていただければ、もっと作品を楽しめると思います。

今年与えられた創作テーマ「愛と平和」。
ひとりでは立ち向かえないかもしんない、でっかいものに。
劇場で、みんなで、立ち向かってみたい。
そこに、だれも想像しなかった「愛と平和」が立ち現れるかもしんない。

さあ、NGTは、開幕しました。
盛大に開いた、その幕を、オオトリを任されたぼくらは、素敵に閉じられるのだろうか。
あと、2週間、全力で闘ってみます。

次回、第9回連載。
「つる」と「愛と平和」の関係。

お楽しみに≡!

Posted by 市原幹也 at 2006年04月14日 10:51