Resonance in HIBIKIHALL 2006北九州国際音楽祭

q14_RiH_01.jpg世界が喝采!

新世代の旗手たち―北九州へ

世界の檜舞台で躍進中の俊英、才媛、ジャンルをひらりと飛び越える新世代の旗手たちが、嬉々として北九州にやってきます。音楽の喜び、ライヴの醍醐味を満喫する2006北九州国際音楽祭が近づいてきました。

鮮やかなテクニックと情趣あふるる音楽性で、欧米のクラシック・シーンを牽引するアジアの若手ピアニストや、日系の愛すべきヴィルトゥオーゾ・チェリストが名乗りを挙げれば、ファン憧れのトップアーティストも登場。

北九州から羽ばたきプラハのオペラハウスで賞賛のソプラノや、最難関の国際コンクールで脚光を浴びた新星にも、どうぞ拍手の花束を。

グランドフィナーレを飾るのはロシア屈指の名門オーケストラで、はやくも喝采が聞こえてくるかのよう。

ようこそ 2006北九州国際音楽祭へ。

ショスタコーヴィチ生誕100年 メモリアル・コンサート
サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団
芸術監督・首席指揮者:ユーリー・テミルカーノフ
ヴァイオリン:ワディム・レーピン


「本場」という言葉が真実として響くオーケストラ
名匠ムラヴィンスキーが育て、テミルカーノフが君臨する
サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団

 


伝統が息づく団体

伝統や本場という意識は、漫然と長い年月が過ぎるのを待っていれば生まれるというわけでもありません。関わる人たちの努力や愛情、深い理解などが伴わなければいけないのであり、音楽の場合は飽きるほどに何度も何度も繰り返し演奏され、音楽家にとっても聴衆にとっても身内感覚になるほどでなければ、認めてもらえないでしょう。

 今年、生誕100年を迎えた旧ソヴィエト連邦の作曲家、ドミトリ・ショスタコーヴィチの音楽を考えるとき、もっとも「伝統」を感じさせるオーケストラがサンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団であることは、多くの音楽ファンが認める事実だと思います。なにしろこのオーケストラは、亡くなってから20年近くになろうとしている今でも新しいファンを増やしている伝説的な指揮者、エフゲニ・ムラヴィンスキーのもとで、ショスタコーヴィチの重要な作品をいくつも初演し、国内外で何度も演奏をしてきているのですから。

伝説的指揮者の薫陶

q14_RiH_02.jpg1802年に創設された「ペテルブルグ・フィルハーモニー協会」がそのルーツとされますので、オーケストラの歴史は200年以上。モスクワと並ぶ二大文化都市として歴史を築き上げてきた街において、このオーケストラはロシア文化と音楽の中心的な存在でした。1917年、ロシア革命をきっかけに国立レニングラード・フィルハーモニー交響楽団として新しいスタートを切ったオーケストラは、1938年にムラヴィンスキーを常任指揮者に迎えますが、その前年(1937年)に初演を行ったのがショスタコーヴィチの交響曲第5番でした。それ以降は作曲者の信頼も厚く、オーケストラはムラヴィンスキーの厳しいトレーニングを受けながら、重要な作品の初演を含む多くの演奏を行ってきたのです。つまりはこのオーケストラがショスタコーヴィチの音楽を最初に創造し、長い年月をかけて熟成させてきたと言えるでしょう。そしてそれは、ムラヴィンスキーの死後に楽団員の投票で芸術監督・首席指揮者に選ばれた、ユーリー・テミルカーノフの時代になっても同様でした。

 

 

作曲者の声を音楽に

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今回の北九州公演では、そのショスタコーヴィチ作品が2曲。特に交響曲第5番は、前記の通りこのオーケストラが約70年前に初演しているだけに、「本場」という勲章を堂々と引っさげての公演。音楽の1フレーズ、1ハーモニーに確かな自信が感じられ、"ショスタコーヴィチの言葉"が自然に音楽となってわき出てくるような演奏ができるのは、世界広しと言えどもこのオーケストラだけでしょう。またエフゲニ・キーシン(ピアノ)と同じ時代に神童として登場したワディム・レーピンが、ヴァイオリン協奏曲第1番を演奏。作曲者の盟友だったヴァイオリニスト、ダヴィド・オイストラフが初演をした作品ですが、デビュー時に「オイストラフの再来」と絶賛されたレーピンだけに、こちらもまた作品に深く共感した音楽が奏でられるのは間違いありません。さらにはストラヴィンスキーほか多くの作曲家を育てた"オーケストラの魔術師"リムスキー=コルサコフも、このオーケストラと関係が深かった一人。つまり今回の北九州公演は、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団が誇りを持って皆さんにお届けする、本場最高級のロシアン・ディナーなのであり、心が熱くなるような体験を約束してくれるコンサートなのです。

○執筆者/山尾敦史(音楽ライター)