2005年07月26日

[俳優の為の「呼吸・身体(からだ)・声」講座]

6日目 (実践編 7月25日)

今日でこの講座も最後です。
まず、ストレッチ、声出しでウォーミングアップです。
改めて、「腰を立てる」ことの確認もしました。

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↑手で身体を支えると腰を立てやすい。
  力を入れていないように見えて、実は腰とお腹の周りの筋肉をすごく使っている。

先生曰く「腰を立てるのは難しいけれど、すべての表現においてとても大事なことなのでやっていきましょう」とのことです。

ウォーミングアップの後、グループに分かれて本読みをしました。その間、子音の音への注意や、同じ人物が若いときと年をとったときの声の出し方、夫婦どうしの会話のテンポについてなどが先生から指摘がありました。
同じ人物で違う年齢を演じるのはむずかしいことですが、若いときと年をとったときの「ヒフ感」の違いや、骨格、筋肉のつき方の違いを考えて演じるとよいそうです。
また、お互いの台詞をよく聞こうとしているのでテンポが遅くなっていたのですが、夫婦の間柄なら聞いた瞬間に分かるということもあるのでもっと速くてよいとのことでした。
音程が一定になっていることについては、「役者は音の幅、リズム感を持って欲しい」とのことです。相手の台詞のリズムに対してどう応えるか、本読みの中で気づくこともあるそうです。
方言のなまりが出てしまう場合も、標準語の朗読を聞くなどして耳を鍛えていかないといけません。

次に、劇場塾の担当で、演出家でもある泊さんからこの戯曲の演出プランを話してもらいました。台本には書かれていない部分で、キーとなる人物に何が起こったのか、それぞれの場がどういう意味を持つシーンなのか、そしてどう繋がるのかなどを話しました。休憩の後にはその演出プランを踏まえた上での本読みとなります。

グループに分かれ、演出プランを踏まえて本読みを続けていきます。
役柄の夫婦の力関係からの違いや、役の年代・性別の人がどういう服を着ているかという観察からの役へのアプローチの仕方などのアドバイスもありました。

最後に、この2日間の実践編について学芸係の泊さんは「俳優講座をプレ事業からやってきて4年目にして初めての試み。こういうことは普段なかなか芝居の稽古場ではやらないことなので、とても有意義な2日間だったのではないでしょうか。」と語っていました。

<受講生の感想>

【女性・舞台経験なし】
私は俳優を目指しているのではなくて、のどを傷めて手術をすすめられており、ちゃんとした声の出し方を知りたいと思っていたところに、図書館で加瀬先生の本を見つけ、先生に直接お電話したことが参加のきっかけです。そのときに「北九州で講座がある」と伺って参加しました。
俳優ではないですが、身体の構造やの使い方を知るきっかけになり楽しかったです。

【男性・舞台暦4年】
もともと加瀬先生の本を持っていて、講座があると聞きぜひ受けたいと思って参加しました。
初めての参加で、自分がやっていることが正しいのかどうか確かめたいと思ってました。
発声だけだと思っていたのですが、身体で覚えるのはためになりました。
本の読み方なども何を中心に考えていったらいいのかなど、ベースになるものを得られたのでよかったです。

Posted by 北九州芸術劇場(K) at 13:58

2005年07月25日

[俳優の為の「呼吸・身体(からだ)・声」講座]

5日目 (実践編 7月24日)

今日からいよいよ「実践編」に入ります。

いつも通り、ストレッチと声出しでウォーミングアップの後、前回配られた台本を「素読み(すよみ)」しました。
素読みは、登場人物の役から感情を入れて読むのではなく、戯曲全体を読んでいきます。そのときに舞台の情景や構造を自分なりに想像します。下手に何があるのか、上手はどうなっているのか、それぞれの人物がどこで何をしているのか、道具はどこから出すのかといったことを頭に描きながら読み(聞き)ます。

役者さんの中には、自分はいつも舞台に立っているので、舞台から見た情景を思い描く人もいるそうです。そのように自分の立場からの想像で構わないけれども、客席から見たらどう見えるかなどいろいろな角度から見ることも大事です。

1場の舞台の絵も、具体的にそれぞれ描いてみました。
ある家族が住む、家のキッチンとリビングがメインの舞台ですが、それ以外の部屋の配置やキッチンのカウンターの形まで考えていきます。家具の形一つとってもいろいろなタイプがあり、書かれている物語に合うのはどういうものか考えることも必要になってくるので、基礎編でも先生が言われているように、お芝居を観るだけではなく、映画や美術などを観ることも含めいろいろなものに対する観察力が大切なようです。

また、台本には早口言葉など発声しにくい言葉が意図して盛り込まれていました。ひとつひとつの音を早くきちんと発声できたからといって意味がお客さんに伝わる訳ではなく、「台詞の中で丁寧に言えて、意味が伝わることが必要」とのことです。

引き続き読み進めていき、描かれている家族の関係などをつかんでいきました。来客があり、人物たちが移動したときに誰がどこにどう動いたかなども素読みのときのポイントになります。

物語には「スイングジャズ」が登場し、人物の過去を説明する要素の一つになります。スイングジャズとそれが流行した時代について、いくつかの資料も見せてもらいました。

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↑スイングジャズが流行した1930年代、「カフェー」も流行。カフェーで働く女給さんの資料。

台本には、数回同じ台詞のやりとりが繰り返されるシーンがあり、それがどう繋がっているかという話もありました。全体を読んで「こうでなくては繋がらない」と決めてかかるのではなく、「ニュートラルな状態に自分を置き、いろいろな可能性を探って読んでみましょう」とのことでした。

また、台本にはいわゆる「説明台詞」も盛り込んでありました。説明台詞は感情でしゃべれないので、なかなか「台詞が頭に入らない」のだそうです。「説明台詞」にならないようにに話すには、自分で思い描いた絵を動かしながら話すとよいそうです。

この台本を上演するときにどういう小道具を用意するかということも考えました。
例えば、お芝居の上での時間の経過を表現するのに、時計を使うのも一つの方法だし、干し柿がだんだん小さくなっていく様子などいろいろな方法が考えられます。
持ち道具や衣装は、役者さん本人がこだわって考えたり管理したりしてもよいとのことです。例えば衣装や道具の汚し方なども、表現の一つなので役者さんがやる方がいいようです。
道具に関しては、本物を使っても舞台の上ではすごくニセモノっぽくなってしまったり、ある部分を省略したり誇張したりしたニセモノが本物に見えたりします。「そういうことを考えて作るのは楽しいのでやってみて」とのことでした。

次回はグループに分かれ、役を当てて台本を読んでいきます。

Posted by 北九州芸術劇場(K) at 21:30

2005年07月23日

[俳優の為の「呼吸・身体(からだ)・声」講座]

4日目 (基礎編 7月17日)

基礎編最後となる今回は、実践編へと繋がる内容になりました。

まずはいつものとおりウォーミングアップのストレッチ、呼吸、声出し、そして前回、練習してくることが宿題になっていた母音を発声してみます。
今日はさらに、ストレッチのポーズの一つである「カエル」でも発声します。背骨の中心線に向かって音が出る感覚と腰の感覚をつかめるように、とのこと。見た目には四つん這いになって声を出しているだけですが、実際には腰やお腹の周りの筋肉をしっかり使わないとできないことで、身体の中が疲れるようです。

次に、子音の発声に入りました。

カ行から始まり、サ行、ハ行と続いていきます。ひとつひとつ、口の中を鏡で見て、舌の形を確認しながら、また、子音は母音のロングトーンに乗るので特に長く音が続けば、母音をきちんと発声するように注意します。
それぞれの子音にコツや注意点があり、滑舌が悪くきれいに発声できてない場合は舌の先の位置や顔の筋肉を繊細に使えていないことが原因だったりするようです。
ハ行は息がもれて発声される音で、もれすぎて母音が出せないといけないのですが、腰の支えがないと続かないそうです。ハ行の訓練で、発声に使うお腹や腰の筋肉がつきます。発声で鍛えられた筋肉はなんにでも使えるので、「ハ行の稽古で筋肉を付けてください」とのことでした。

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↑鏡を見ながら舌の位置を確認

鼻濁音は地域によって使わないところもあり、九州は使わない地域だそうですが、先生によると「日常の会話では使わない人もいますが、標準語には鼻濁音はあるし、声の仕事をしようとしている人はできるようにしていてほしい」とのこと。何が鼻濁音になるのかはアクセント辞典で引くといいそうです。

子音の音というのは、舌がその位置を覚えるまで反復練習しないと身に付かないものだそうです。録音して聴いてみたり、口の形を鏡で確認して練習したりしてみるとよいとのことです。

午後は身体の力を抜く「脱力」から入りました。
声を出すときに特に使うのは腰やお腹の周りの筋肉だけなので、他を脱力するのですが、例えば、壁に背中を付けて股関節から下を脱力して声を出すとき、特にハ行などで息が出なくて苦しかったりヘンなところに力が入ってしまっているのは、日頃のくせが出ているのだそうです。
また、筋肉を解放して声を出す、というのもやりました。3人一組になり、一人が脱力して座っているのを残りの二人が腕と足を持って支え、脱力した一人が息を吐きながら「ああーーー」と声を出します。

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↑腰から息を吐く。喉の周りに力が入るとできないそうです。

次に『ファウスト』をテキストに戯曲へのアプローチの仕方を考えていきましたが、その前に前回出てきた「ループ感」について再度解説がありました。

「ループ感」とは、小道具や衣装など同じものが繰り返し使われ、その度に印象が強くなって物語の構成や背景に深みが出てきたりする感じのことですが、例えばダスティン・ホフマンとメリル・ストリープが出演している『クレイマー、クレイマー』という映画ではフレンチトーストが3回出てきます。1回目は母親が息子に食べさせるおいしくてきれいにできあがったフレンチトースト、2回目は母親が出て行ってしまった家で、息子にねだられた父親が見よう見まねで作るきたなくてあまりおいしくないフレンチトースト、3回目は父親が手際よく作るきれいなフレンチトースト、というように、家族の関係を表すように繰り返しフレンチトーストが出てきます。

このように物語の時代や、人物の心が反映されて出てくるもので、戯曲に役者として向き合うときもどういうところで役にこだわっていくのかという部分で使っていけそうです。先生曰く「戯曲の中に書いていなくても自分で作ってしまうこともできるし、書かれていれば演出家に相談してやっていけばいい」とのことです。

そして『ファウスト』の4場を見ていきました。
4場は1幕のヒロイン、マルガレーテの部屋が舞台です。ト書きからどういう状況なのかを見ていきました。整理された部屋からマルガレーテはきれい好きなんじゃないか、とか、歌を歌いながら着替えるというのは「嬉しい」心境なのか、などを話していきました。「自分だったらどういうときにそう動くのか」を考えながら読んでいきましょう、とのことです。
そのほか、何度も出てくる「マルテ」(マルガレーテの友人)というマルガレーテの台詞のそれぞれの心境などを考えていきました。先生曰く「読む人が違えば読み方は違うし、正解はない。前後のつながりや何とループしているのかなどをおもしろがって可能性を読んでいく。このような読み方をしてみてください」とのことでした。

今日は、次回使う、先生の助手の方が今回の講座用に書かれた短い戯曲が配られました。ジャズの話題が出てきたり、昔の銀座のお店の話が出てきたりしますが、今回の宿題はこの戯曲の素材を自分なりに探してくることです。

その後、上半身のストレッチ=腕、肩胛骨の運動で、普段は意識しない背中に意識を向けてみました。


<受講生の感想>

【女性・舞台歴10年】
もともと骨格がよじれているのでストレッチをするのが一苦労です。
まっすぐ立つのが大変。整体でじっくり治したいと思います。

【男性・舞台歴4年】
今日はストレッチがきつかったですが、自分の身体の固さが分かってよかったです。
本の読み方は、今までも講座で話があったようにはやっていましたが、一つのやり方として参考にしたいと思います。

Posted by 北九州芸術劇場(K) at 21:46

2005年07月10日

[俳優の為の「呼吸・身体(からだ)・声」講座]

3日目 (基礎編 7月3日)

いつものウォーミングアップの後、壁に背中を付け腰を入れて立って声を出してみました。膝の中心線=お皿の真ん中と足の人差し指を結んだ線をまっすぐして足を曲げます。この中心線が歪むと足をひねったりしてしまうのだそうです。

次に、先ほどのように背中をまっすぐに、足を曲げ腰を下げた状態で歩いてみます。仙骨で体重移動し、すり足で歩いていきます。演技をするときは、歩いたり動いたりしながら声を出しますが、身体の中心線がとれてなかったり、足首が固かったりということが原因で声が出ないこともありえるとのこと。

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↑腰を入れた状態で歩く

みなさん、なかなか難しいようですが、先生によると「大人だし、身体もでき上がってしまっているのですぐには無理。時間をかけて、心と身体のコミュニケーションをとりながら身体に“お願いする”気持ちで取り組む」とのことです。

しばらく歩いた後、滑舌の話に入りました。

舌を動かすときには顔の筋肉など持っているものを100%使う必要はなく、舌を両端で支えて自由に動けるようにしておくとのこと。滑舌が悪いというのは、舌の支えがなかったり、母音のときの舌の位置がよくなかったりしているのが原因の一つだそうです。

休憩の後、「ストップモーション」と「スローモーション」についての説明がありました。

ストップモーションとは、動きの途中で止まるということではなく、例えば、上下に動いているのであれば、上に行くのか下に行くのか分かる状態で止まるとのこと。動いているエネルギーを止めてしまっては、どちらかに動こうとしているのが見えなくなってしまうので、身体は止まっていてもエネルギーは動いているということです。

スローモーションも、動きの速度がゆっくりになるからといって動かすときに使うエネルギーを減らしたらスローモーションには見えないので、ゆっくりな分、エネルギーは倍必要とのこと。

見えていることと動いていることは同じではなく、動きが流れる方向性を考えないといけない。
どちらも、力を入れる筋力も、脱力を続けるだけの筋力も必要で、難しいことだけども稽古して身体の使い方を覚えるしかないし、どう動いているのか観察も大事だそうです。

次に、戯曲をどう読むかどう表現するかという話に移りました。

原作がある作品の場合は、原作から察することができることもあり、例えばテキストにしている『ファウスト』なら、原作者のゲーテは18世紀の人で裕福な家の子どもであり、若い娘にいつも恋をしている。『ファウスト』は16世紀のファウスト伝説を基にして書かれていて、原作では「ゴシック風の部屋」と書いてあるが今回のテキストでは「過去とも未来とも現在ともつかない」と書いてある、ということが原作や原作者の情報から分かります。

こういう読み方は演出家の意図と違ってもよいし、自分のイメージ、「絵」で読んで欲しいとのこと。そのときに「ゴシック風の」という絵が浮かぶかどうかは、その時代の絵画やその時代を舞台にした映画などを観たことがあるかないかで違ってくるので、加瀬先生は「常日頃から美術や映画を見て、自分の引き出しを増やしておいてください」とおっしゃってました。

稽古に入る前に、ここまでのことはやるべきだそうです。

それから、『ファウスト』でどの役をやりたいかということをみんなで出し合いました。
例えば、欲望に正直で苦労しているマルテは色んな作り方ができる役で、頑なな信仰心を持ち自分にも娘にも厳しいマルガレーテの母親はあまりいろいろ作れないけどそれも面白い役です。

また、お芝居に取り組むときに、話がどう繋がっていくかという「つながり」の部分を探したり、小道具や衣装など同じものが繰り返し使われ、その度に印象が強くなって物語の構成や背景に深みが出てきたりする「ループ感」など、「本を読んだり稽古をしたりする段階ですごく計算をしてほしい」とのことでした。

次回、テキストの『ファウスト』に入っていきます。

<受講生の感想>

【男性・舞台歴8年】
呼吸法だけでなく、台本の読み方、役へのアプローチの仕方など、実際的な内容で、今年から演劇活動を再開しようとしている自分にとって、とても役立ちました。

【女性・舞台歴15年】
毎回情報量が多くて、講座終了時には頭がいっぱいになっています。
いつも自分が無意識にやっていてできていないところを発見させられるんですが、今日は、自分のふくらはぎの筋肉の付き方が、偏平足気味な歩き方からきているものだということを知りました。
また、日頃から心がけていた映画・音楽鑑賞のような一見演劇とは関係ないようなことも、台本を読み込む際に役立つことだったと言われたので、これからも続けていこうと思います。

Posted by 北九州芸術劇場(K) at 19:10

2005年06月14日

[俳優の為の「呼吸・身体(からだ)・声」講座]

2日目 (基礎編 6月12日)

2週間ぶりの講座です。
今日は前回の復習から始まり、ストレッチから寝転んで腹式呼吸、うつぶせてハミング、身体を横に向けてのハミングへ。

今日は初めて「口を開ける」ことになりました。ハミングでは口を閉じた状態で「音」を身体に響かせていますが、口を開けると音の響きが外に出ます。まずは、自分がどんなふうに口を開けているか、力が入っていないか鏡でチェック。このとき、ただ口をぽかんと開けるだけですが、力が入ってしまったり、開ける方向が上あごに対してまっすぐでなかったりする人もいて、そういったムダな動きによって、音がこもってしまうそうです。「そういう表現もあるかもしれないけれど、まずは何もしない状態で普通に口を開けましょう」と先生。

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↑力を入れないでぽかーんと口を開けてみる


「ハミングのとき、音は身体の中心を通って頭のてっぺんに抜けていく。身体=筒の中で上に抜けて響く。その途中に口が開いて音が出る」とイメージしながら、寝転んでハミングから口を開け、音を出していきます。「ハミングで身体に音を響かせながらぽかんと口を開けると、音が外に出る。響きは変わらない」「息を吐けば音になる。声を出すというより、口は何もしなくても音は出てくる」という先生の説明を聞きながら実践していきます。

次に、「高い声を遠くに飛ばそうとするのと、低い声で近くの人に話しかけようとするのと違うよね」ということから音・呼吸のの距離感についての説明が始まりました。

遠くでも近くでも、意識がまずそこに行く。気持ちと呼吸が連動しているようです。先生曰く「距離感=呼吸を変えずに声だけ飛ばそうとしても伝わらない。」
では、遠くに伝えようとするときはどうしたらよいのか。高い声で遠くに声を飛ばそうとすると、ホースで水量を変えずに水を遠くに飛ばそうとするときにホースの口を狭めるのと同じで、大抵はのどを絞って遠くに飛ばそうとするそうです。楽器も同じで、口をしめて息に勢いをつけて音を出すのですが、声の場合はNG。声は、「息の吐き方で音色・音程を変えることができる」。

では、のどを狭めるのではなく、どうやって息の袋の出口を狭くするかというと、袋の「支え」になる筋肉の使い方だそうです。息の袋には内側と外側があり、内側は息を押し出す力、外側は袋を支える力。外側の力があると内側により力が入るので、そのバランスをイメージしながら具体的に筋肉を使っていきます。

声を出すときには、横隔膜から上、股関節から下は使いません。袋の出口を狭めるときには、お腹・腰・脇の筋肉を使うそうです。息を出すときに、袋を下に向けるのが脇の筋肉で、息を押し出すのがお腹と腰。

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↑息を吐くときの筋肉を確認する

再びストレッチの続きに入り、終わってから、もうひとつのテキスト「ワルプルギスの音楽劇 ファウスト」(脚本:能祖将夫)の台本を手に、「渡された台本をどう読むか」という話になりました。
「この本で何がおもしろいのか、何が言いたいのか考えながら全体をイメージして読む。」
自分の台詞部分のみを覚えるのではなく、自分と会話をする相手の台詞も含め「入る」ものだそうです。また、時代背景を調べたり、自分で理解できる限りの情報を集めるなど、台本に自分なりに取り組むことも重要なようです。(ただし、演出家によっては「原作についての情報は入れないでください」など差し止めがある場合もあるので、そのときは素直に従うようにとのこと。)

今日は、この「ファウスト」を読み、作者(脚本執筆者)が言いたいことを考え、自分だったらどの役がやりたいか自分ありに素材を探してくる、という宿題が出ました。

午後は「股関節から折れる」という感覚を体験しました。
例えば、前屈姿勢になったり、腰を前に曲げる際、股関節から折れている状態でいることが、自由で美しい表現へとつながっていくとのこと。
続けて、「真っ直ぐ立つ」ということもやってみますが、真っ直ぐなつもりでもお尻が出ていたり背中が曲がっていたりと、ただ「立つ」ということも意識的にやっていないと難しいようです。

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↑棒を使って「真っ直ぐ」かどうか確認してみる


加瀬先生は、
「形破り、という言葉があるが、それは形を知っている人が形を破るから成立するもので、形を知らない人が破ってもそれは、形無し、なだけだ」
という無着成恭(むちゃくせいきょう)の言葉を引用して、「形」というもの、正しいカタチの重要性を説明されました。
さらに、ダンサーが踊っている映像を見て理想的な身体の使い方を説明したり、歌舞伎の写真を見たりしながら、「すべての表現は“腰が入っている”状態から始まっている」と力説しました。

宿題は、前回配った戯曲『ファウスト』を読み込んでくること。
次回から少しずつ実践的な内容に入っていきます。


【女性・舞台歴1年】
緊張しやすくて、手や足に力が入ってしまうんですが、今日は立ち方を勉強できてよかったです。
今までと違う身体の使い方ができてリラックスもできたし、自分のものにできるようにしたいです。
台本への取り組み方のお話もあって、いろいろ考えて取り組もうと思います。


【女性・舞台歴6年程度】
関節がすごく固くて、股関節から曲げるのがきつかったです。今回、そういったことを初めて意識したので、今後克服していきたいです。

Posted by 北九州芸術劇場(K) at 12:15

2005年05月29日

[俳優の為の「呼吸・身体(からだ)・声」講座]

1日目 (基礎編 5月29日)

5月29日日曜日、いよいよ「俳優の為の「呼吸・身体(からだ)・声」講座」が始まりました。
今年の受講生は35名、「基礎を学びたい」という劇団所属の方、「ナレーターなど声の仕事をやりたい」という方など、意欲たっぷりのみなさんが集まりました。

講座は、11時から創造工房稽古場にて、まずは基礎的な理論についての話から始まりました。
「声が出る」ということはどういうことか、声が出ないということはのどに何が起きているのかなど、声が出る仕組みについて、声帯の写真や図などを見ながらの解説、共鳴と音色の関係の話があったあと、声を出すための呼吸についての解説に入りました。

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おでこと胸に手を当てて、「頭部共鳴」と「胸部共鳴」を確認してみる。

加瀬先生は、「表現につながる声とはどういうことか」という視点から、各種の解説や説明をされていて、「声の幅が広がれば、それだけ表現でき得る感情の幅も広がる(感情が客席に届く)」などの言葉に、受講生も真剣に耳を傾けていました。

休憩後、仙骨など呼吸するときに重要になる骨の名前と位置を確認した後、実践に入りました。
まずは、先生が「中心呼吸」するのをみんなでおなかや胸に手を当てて確認し、息を吸ったり吐いたり、二人一組でお互いの姿勢や息の吸い方を見ていきました。
先生曰く、「そんなすぐにはできないものよ」とのこと。だから「毎日続けることが大事」だそうです。

呼吸の実践が終わると、「腰を入れる」などの体の使い方や筋肉などを意識して、ストレッチに入りました。

骨格や筋肉、関節のつき方、心理状態などをしっかり観察し、なぜそうなるのか考え、人や動物の真似をしてみるのもよいとのことです。

復習ともう1冊のテキストを読んでくることが宿題として出され、1日目の講座は終了しました。

1日目の講座を終えて、受講生の方に感想を訊いてみました。

【女性・俳優歴9年程度】
受講は今回が初めてですが、「自分」を知るということは地味な努力だけれども大切なんだな、と思いました。
演劇を勉強する学校に行っていたので、こういう身体のトレーニングも授業でやりましたが、若い頃は「発散したい」という気持ちばかりで…。今、改めてこういう講座を受けてみると、発散することもいいけども、こういうことをきちんとやっておくと壁にぶつかったときに力になるというか、長続きできるな、と思います。

【男性・舞台出演経験1回】
学生時代、運動部だったので身体の動かし方については自信があるけど、声の出し方など、中身はあまりないので、身に付けて力を上げていきたいな、と思って受講しました。
今日、1日目が終わってみて、「身体の動かし方は自信がある」と思っていたけど、ストレッチのときなど思うようにできてなくて、まだまだわかってなかったな、と感じました。

Posted by 北九州芸術劇場(K) at 19:29