2005年08月27日

[演劇人の為のアーツマネージメント講座 ―How to 「演劇制作」―]

第5回 上演:作品と観客の出会い (8月18日[木])

まずは講師の方から前回の補足がありました。

営業・宣伝・広報は集客、チケット販売を目指したものですが、「観客」を増やす、つまり「創客」のためにはどうしたらいいか?を考えてみました。
「創客」のためには、演劇の魅力を伝えていくことが重要ですが、そのための手法としては、アウトリーチ(=教育普及、芸術普及)としてワークショップや講座、講演会、セミナーなどがあります。(この講座もその一つ。)
アウトリーチでの体験で、お客さんとしては、例えば北九州芸術劇場のバックステージツアーで裏方のスタッフと出会った人は、舞台の裏側のことも考えながら公演を観るであろうなど、観るときの視点が増える、変わるという効果が考えられます。
舞台作品は、特に新作の場合、それがいい作品になるかそうでもない作品になるか分かりません。だからこそ、それでも観に来てくれるお客さんを増やしたいのです。

また、アウトリーチには、演劇などの現場では想像力やコミュニケーション能力が活かせるという背景から、教育や福祉、医療の分野での社会貢献の側面もあります。
営業・宣伝・広報は、もともと興味を持っている人にしか大きな効果が見込めませんが、アウトリーチには、「(もちろん来てほしいけど)必ずしも観客として来なくてもいい」という考えもあります。つまり、劇場という場に限って例えると、「劇場には行かないけど、自分の住んでいるところにこういう劇場があるのはいいね」と支持してくれる人=サイレントパトロンに向けたものでもあります。

欧米では警察の研修に劇団の俳優などが派遣されたりということもあるそうで、「劇団が学校ワークショップのプログラムを持っているのもいいね」とのことでした。

また、さかのぼって「作品づくりの流れ」についての補足もありました。

主には、技術関係の打ち合わせをどういうタイミングで進めていくかということです。

           (1) 稽古開始(顔合わせ)   
             ↓
 開始から      ↓
             ↓
 7日目ぐらい- (2)半立ち
           (3)立稽古
             ↓
 25日ぐらい -  (4)通し稽古
             ↓
           (5)劇場入り


*(1)〜(5)まで概ね30日間
*俳優・演出家・舞台監督・美術・照明・音響 …が関わっていく。

まず一番最初に打ち合わせが始まるのは美術プランです。

早い場合には稽古が始まる2ヶ月前にプランが決まっていたりもするそうですが、美術打ち合わせは大体稽古に入る前頃から行われます。美術のプランは、俳優がどう動くかアクティングエリアに関わってきます。
美術打ち合わせには、演出・美術プランナー・舞台監督・制作が最低限必要です。
美術プランナーは、どんなセットにするのかの絵やどんな素材にするか、舞台監督は図面を書き、どんな道具の作り方をしていくか、また舞台全体を取仕切っていく役割でもあります。
照明家にもなるべく早い段階から入ってもらい、照明をどう吊っていくか照明プランに関わってくる部分を把握してもらいます。
美術ですから、衣装やヘアメイク、履物なども色合いなど見た目のイメージを共有するのに頃合を見て参加してもらいます。
また、最近は映像を使った作品も多いですが、映像を使う時には注意点も多いので美術打ち合わせの中で話してきます。

次に音響打ち合わせが入ってきます。
音響は美術打ち合わせには基本的には関係ないですが、スピーカーを置く位置に影響が出てくることもあります。
音響の打ち合わせには、美術と同じく、演出家、音響プランナー、舞台監督、制作が関わります。音楽を作曲する場合には、作曲家が曲を作る期間を設けないといけないので、かなり早い段階に決めなくてはいけません。役者の演技に関わってくるので、効果音も稽古場に早めにあった方がよく、本読みのときなどに軽く打ち合わせができるとよいようです。

照明家は、まずは美術が決まっていく段階に関わり、以後は、最初の通しなど、役者がどう動くか、シーンづくりが固まってくる頃から入ってきます。シーンづくりが固まったら照明家は仕込み図面を書き、劇場入り直前頃にオペレーターへの指示をしていくことになります。

衣装は既成のものを使わず、新しく作る場合は、制作期間が必要なので早めに打ち合わせが必要だし、舞台監督はそれぞれのプラン打ち合わせにすべて立ち会っていきます。

また、このような作品づくりの流れの中で、ポイントになる打ち合わせには、制作は必ず立ち会います。予算やスケジュールの面でも重要ですし、制作は作品のことを外の人に話していく立場なので、打ち合わせの中で、作品について話すときに使えるキーワードが見つかることもあります。
舞台監督に舞台関連の予算管理を預けているなど、必ずしも制作が関わらなくてもいいケースもあります。ただし、この場合も舞台監督と制作の間のコミュニケーションが重要になっていきます。

ほかには「ステージング」という、振付や殺陣、歌が入る場合はそれぞれの打ち合わせが必要ですが、もちろん、作品の中でどの程度使われるのかという部分で関わる度合いも変わってきます。ステージングについては、制作というよりは、演出助手が稽古の組み立てをしていくなかで進めていきます。


そして、今回のタイトル内容に入っていきました。

まず、「劇場入りするときに何をしなければいけないか」考えてみました。

・搬入…アルバイト必要?→舞台監督
      車輌
      駐車場のこと ←搬入口の大きさ
・楽屋口の場所
・仕込みスケジュール
・ケータリング(お弁当)
・当日連絡先
・楽屋割(化粧割)
・受付…当日券、預かり券、招待、専用受付、気持ちよく
・チラシ折込、パンフ、アンケートなどの配布物
・キャストスタッフの健康状態
・ロビーなどでの展示
・物販
・初日乾杯
・打ち上げ

「仕込み」のスケジュールも見ていきました。
舞台、照明、音響など、それぞれの部門が一つの空間で効率よく作業していくために、仕込んでいく順番を考え、並行して進められるようなものはそのようにスケジュールを組みます。

    [舞台]    [照明]    [音響]    [衣装]    [小道具]

  床(ベース)  吊り込み  スピーカー
                    吊り込み

      ↓      ↓       ↓

      壁    シュート  ラインチェック

      ↓      ↓       ↓

     天井   プロット  サウンドチェック
         (シーン作り)
      ↓ ※時間がかかる

    仕上げ
-----------------------------------
             ↓
        (テクニカルリハーサル)
             ↓
           場当たり   ←←俳優、衣装なども
     ※稽古場と違うことをチェック
             ↓ (返し稽古:1幕だけなどものによって)
           通し稽古
             ↓
           舞台稽古
           ゲネプロ(G.P)  ←←記録(舞台写真、VTR)
             ↓               ※お客さんがいるときはNG
            初日

では、客席の方で必要なことを考えていきます。

・消防法…舞台ツラから1メートル空ける
・避難経路
-------------------------------
・開場…ほんとに開けていいのかの判断→連絡・命令系統の確認
・開演…時間が押す、押さない→誰と誰が話し合って決めるのか
・注意アナウンス(携帯電話など)
・客止め←演出家の判断も
・遅れ客対応       -┐
・扉の開閉(音・光)   -┴ 案内するスタッフなどやる人に注意すべき点を徹底して伝える。

・見切れ
・客席のゴミ

そして本番が終わり千秋楽を迎えて、

・バラシ
・搬出--車輌
・返し物、保管か廃棄か

-------------------

・清算
・決算
・報告(内外)

と制作の仕事は続きます。


そして次回は戯曲講座で書かれた戯曲を読み、「シアターラボ」で上演したいのはどの作品か考えます。

Posted by 北九州芸術劇場(K) at 16:24

2005年08月26日

[「10年書き続ける」ための戯曲講座]

第六回(8月13日(土)14:00〜18:00)

今日で講座も残すところあと2回となりました。
講座の初めに、「戯曲を書くって作業は孤独なものだから、せっかくみんなを4時間も拘束するのでこの時間に他の人の作品から学ぶということも大切にして進めていきたい。」と、はせ氏は話されました。

3場からなる戯曲を書いていて、前回最後の場面がパソコンのエラーで消えてしまったと嘆いていた受講生も今回は最後まで書き上げての提出です。
受講生はとりあえずは書き上げたというだけであまり自信がないと言います。
初めの場面は書き直しがされていて、それについてはせ氏もとてもよくなっていると誉めていました。
問題の3場ですが、作者も「必要なことだけをかなりストレートに書いたので、読んでみて自分でもこの展開に『何だそれ?』と思った。」と言うくらいで、はせ氏も「たしかにまとめてしまいましたという印象も受けるね。」と返されました。
内容は、仕事帰りのOL(20代後半)を押し倒した高校生(男)を何故か部屋に連れてきてしまい、そこでOLの弟やその彼女も出てきて一騒動あり、最後に高校生は家に帰っていくというものです。
その展開についてはせ氏は「ちょっとドラマが小さくなってしまったね。自分が被害者なのに相手を家に上げたりしてとてもスリリングな関係なのに、高校生が説得されてすんなり家に帰り過ぎ。あまりにもきれいにまとまってしまったという寂しさがある。」と言われました。
「言葉だけでは人はそんなに簡単に説得されないということはお客さんも充分承知している。何か具体性が1つでもあるととっつきやすいんだけどね。ダラダラ長く続くエピローグが欲しいわけではないのだけれど、2場の終わり方があまりにも衝撃的だったので3場が弱いと負けてしまう。なんとか着地点を見つけるよう、もう一度書きなおしてみて。」ということです。

gikyoku15.jpg
↑「みんな、読むのうまいね!リーディング講座か?と一瞬勘違いしますね。」

提出された戯曲の新しく書いてきた部分については、いつものようにみんなでリーディングします。
受講生たちの中には劇団で役者をしている人も多く、リーディングもなかなかのものです。
はせ氏の指名する配役も絶妙で、まるでラジオドラマを聴いているかのよう。
はせ氏もみんなの読みを大絶賛していました。

提出された戯曲の中には、「トクホ(特別能力保持者)」といって人の心が読めたり、透視したりテレパシーで会話したり、ポルターガイスト現象を起こしたりすることのできる特殊能力を持つ人を扱ったものもありました。
戯曲の中で、「トクホ」は同じ人間ではあるけれどその特殊能力の為に気味悪がられて特別居住区域に住むことが定められています。
ある仲間内で一人が「トクホ」を匿っていることが分かり、物語はさらに展開していくという設定です。
はせ氏も「これは少しずつ設定が明らかになっていくというシチュエーションが生かされているいい例だね。広い意味でのSFの設定が効いてる。構成がしっかりしてるからだろうね。」と感想を述べ、少しづつ手の内を見せていく時には、このように観客を意識して見せていき方を丁寧に書くのがよいということを話されました。
まだ半分くらいで全体が見えていない作品ですが「SFの設定だけど、最後はきっと泣かせてくれるんじゃないの?」とはせ氏は笑い「乞うご期待!」と次回も期待している様子でした。

gikyoku16.jpg
↑ト書きの読み担当のはせ氏。
 選挙の宣伝カーから流れる長い長いメッセージ(ト書き)にみんなも大笑い。

講座もあと2回というこの段階で、なんとまた一から新しく書いてきた受講生もいます。
彼は前回も新たに作品を書き換えて来ていて、「この前の話はもういいの?」という質問にもあっさり「ハイ!」との答え。
「それじゃ、前回の木を守るあの話はみんなパクってもいいからね(笑)!」と、はせ氏に言われていました。
作者自身が「時間もないことだし、自分が出しやすい身近な題材にしました。今までの中でも一番書きやすいです。」というように、はせ氏からも「役者が喋っていく時に喋りやすいよう、(役者の)アイデアが放り込みやすいようになっている。会話がいいね。台詞が自然で幅がある。」と感想が述べられました。
ただ問題なのは、研究所の話であるにもかかわらずポリシー論に終始しているため(一般の会社の)営業の話としても聞こえるということです。
「どういう研究をしているのか具体的に出さなくても、もうちょっと分かるようにしないといけない。食品関係か薬品関係かとか、自分が作っていく世界なので最低限のアウトラインはないとね。」と、はせ氏は言われました。

大学のサークルの面々を描いた青春ものの戯曲もあります。
「ややこしい人間関係がなんとなく見えるように書きたい」という作者ですが、それに対してはせ氏は「これはある意味演出家の領域なので、材料を放り込んでいれば大丈夫!」ということです。
「『フルハウス』(注:アメリカのテレビドラマ)のようなホームコメディっぽい(オチがアメリカっぽい)感じになってきたね。こういうのって、今少ないから新鮮かも!」とも話され、セーラー服の女の子(※高校生ではない)が押入れに隠れているという設定についても「H的なことを挟みながら青春白書が展開していくのもわりとアメリカっぽいね。性的なことというのも実は演劇っぽいことで、役者を通じて観客が体験するという行為はかなり生々しく、これって演劇の特性でもあるんだよね。」と言われました。

それぞれの作品が完成に向けて大まかな形が見えてきましたが、そのどれもが予想以上に面白くなっていて、一体どれが上演作品に選ばれるのか見当がつきません。
最後に、はせ氏から一度はリライト(注:執筆者本人が書きなおすこと)という経験をして欲しいので来週は是非とも最後まで書き上げてくるよう話があり、毎回書き換えてくる受講生に対しても「もう書き換えないでね〜。〇〇君は怪しいからなあ。でも、前回の(木を守る)話に戻すのなら許す(笑)。」と一言加えて講座を終了しました。

Posted by at 18:23