2005年07月23日

[俳優の為の「呼吸・身体(からだ)・声」講座]

4日目 (基礎編 7月17日)

基礎編最後となる今回は、実践編へと繋がる内容になりました。

まずはいつものとおりウォーミングアップのストレッチ、呼吸、声出し、そして前回、練習してくることが宿題になっていた母音を発声してみます。
今日はさらに、ストレッチのポーズの一つである「カエル」でも発声します。背骨の中心線に向かって音が出る感覚と腰の感覚をつかめるように、とのこと。見た目には四つん這いになって声を出しているだけですが、実際には腰やお腹の周りの筋肉をしっかり使わないとできないことで、身体の中が疲れるようです。

次に、子音の発声に入りました。

カ行から始まり、サ行、ハ行と続いていきます。ひとつひとつ、口の中を鏡で見て、舌の形を確認しながら、また、子音は母音のロングトーンに乗るので特に長く音が続けば、母音をきちんと発声するように注意します。
それぞれの子音にコツや注意点があり、滑舌が悪くきれいに発声できてない場合は舌の先の位置や顔の筋肉を繊細に使えていないことが原因だったりするようです。
ハ行は息がもれて発声される音で、もれすぎて母音が出せないといけないのですが、腰の支えがないと続かないそうです。ハ行の訓練で、発声に使うお腹や腰の筋肉がつきます。発声で鍛えられた筋肉はなんにでも使えるので、「ハ行の稽古で筋肉を付けてください」とのことでした。

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↑鏡を見ながら舌の位置を確認

鼻濁音は地域によって使わないところもあり、九州は使わない地域だそうですが、先生によると「日常の会話では使わない人もいますが、標準語には鼻濁音はあるし、声の仕事をしようとしている人はできるようにしていてほしい」とのこと。何が鼻濁音になるのかはアクセント辞典で引くといいそうです。

子音の音というのは、舌がその位置を覚えるまで反復練習しないと身に付かないものだそうです。録音して聴いてみたり、口の形を鏡で確認して練習したりしてみるとよいとのことです。

午後は身体の力を抜く「脱力」から入りました。
声を出すときに特に使うのは腰やお腹の周りの筋肉だけなので、他を脱力するのですが、例えば、壁に背中を付けて股関節から下を脱力して声を出すとき、特にハ行などで息が出なくて苦しかったりヘンなところに力が入ってしまっているのは、日頃のくせが出ているのだそうです。
また、筋肉を解放して声を出す、というのもやりました。3人一組になり、一人が脱力して座っているのを残りの二人が腕と足を持って支え、脱力した一人が息を吐きながら「ああーーー」と声を出します。

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↑腰から息を吐く。喉の周りに力が入るとできないそうです。

次に『ファウスト』をテキストに戯曲へのアプローチの仕方を考えていきましたが、その前に前回出てきた「ループ感」について再度解説がありました。

「ループ感」とは、小道具や衣装など同じものが繰り返し使われ、その度に印象が強くなって物語の構成や背景に深みが出てきたりする感じのことですが、例えばダスティン・ホフマンとメリル・ストリープが出演している『クレイマー、クレイマー』という映画ではフレンチトーストが3回出てきます。1回目は母親が息子に食べさせるおいしくてきれいにできあがったフレンチトースト、2回目は母親が出て行ってしまった家で、息子にねだられた父親が見よう見まねで作るきたなくてあまりおいしくないフレンチトースト、3回目は父親が手際よく作るきれいなフレンチトースト、というように、家族の関係を表すように繰り返しフレンチトーストが出てきます。

このように物語の時代や、人物の心が反映されて出てくるもので、戯曲に役者として向き合うときもどういうところで役にこだわっていくのかという部分で使っていけそうです。先生曰く「戯曲の中に書いていなくても自分で作ってしまうこともできるし、書かれていれば演出家に相談してやっていけばいい」とのことです。

そして『ファウスト』の4場を見ていきました。
4場は1幕のヒロイン、マルガレーテの部屋が舞台です。ト書きからどういう状況なのかを見ていきました。整理された部屋からマルガレーテはきれい好きなんじゃないか、とか、歌を歌いながら着替えるというのは「嬉しい」心境なのか、などを話していきました。「自分だったらどういうときにそう動くのか」を考えながら読んでいきましょう、とのことです。
そのほか、何度も出てくる「マルテ」(マルガレーテの友人)というマルガレーテの台詞のそれぞれの心境などを考えていきました。先生曰く「読む人が違えば読み方は違うし、正解はない。前後のつながりや何とループしているのかなどをおもしろがって可能性を読んでいく。このような読み方をしてみてください」とのことでした。

今日は、次回使う、先生の助手の方が今回の講座用に書かれた短い戯曲が配られました。ジャズの話題が出てきたり、昔の銀座のお店の話が出てきたりしますが、今回の宿題はこの戯曲の素材を自分なりに探してくることです。

その後、上半身のストレッチ=腕、肩胛骨の運動で、普段は意識しない背中に意識を向けてみました。


<受講生の感想>

【女性・舞台歴10年】
もともと骨格がよじれているのでストレッチをするのが一苦労です。
まっすぐ立つのが大変。整体でじっくり治したいと思います。

【男性・舞台歴4年】
今日はストレッチがきつかったですが、自分の身体の固さが分かってよかったです。
本の読み方は、今までも講座で話があったようにはやっていましたが、一つのやり方として参考にしたいと思います。

Posted by 北九州芸術劇場(K) at 21:46

2005年07月22日

[演劇人の為のアーツマネージメント講座 ―How to 「演劇制作」―]

第4回 チケットはどうやって売る? (7月14日[木])

今回は「チケットをどう売るか?」についての話です。
チケットをなぜ売るのかということに関して、収入を得るだけではなく、「演劇は観客と出会って初めて作品が生まれるのだ」ということを踏まえて考えていきましょうとのこと。

講師の佐藤さんからいくつかの資料をもらいました。

まず1つ目は、「舞台の営業とは何か」「なぜ必要なのか」を簡潔にまとめたもの。
2つ目は、「営業」の具体的な仕事内容についてをまとめた資料。
そして、実際にある公演の企画書と、どのくらいの動員が実現すれば製作費がまかなえるかを計算するための興行試算表、北九州芸術劇場の営業課が団体営業のときに実際に使っているチラシを2枚。といったように、実物が教材です。

現在講座で取り上げている2つの作品は、いずれも手売りが中心になると予想される規模のものですが、団体営業の視点からも考えてみます。

団体営業には、公演1回などを企業などに丸々買い取ってもらう「買取」と、何割かの団体割引料金を設定した上で、社員の方などにチケットの斡旋をお願いする「斡旋」がありますが、現在は経済状況の影響もあって、公演の買取が難しくなっているそうです。
それで、斡旋をお願いできるところを少しでも多く組織化することが重要になります。
割引率については、特に決まった計算の仕方がある訳ではなく、作品に合わせて設定していくそうです。
また、公共文化施設などの買い公演の場合、営業先に作品をPRするときのポイントは、いくつか注意点もありますが、何が売りなのか、自分たちで自由に考えてよいとのことです。

佐藤さんがホリプロの地方営業などもされていたことを踏まえて、どういうところに地方の公演を営業するのかといった質問もあり、その街のことを調べて、買ってくれそうなところに持っていくとのことでした。
営業も地方営業も、相手がいる仕事で、その作品が相手の気が引けるものかどうかがポイントです。

また、広報と宣伝はどう違うのかという話もありました。
宣伝は、広告などお金を使ってチケットを売るためにやるもので、広報はお金をかけずに雑誌などのメディアに取り上げてもらうことです。しかし、基本的には、切っても切れない関係にあり、チケットを売るためには広報には力を入れたほうがよいとのことです。

広報に関してさらに、少し前の回で「作品を語る言葉を持ちましょう」と講師からありましたが、「演劇だからと文化部・学芸部で必ず取り上げてもらわなくてはいけないわけではない。地域によっては記事の内容によってあまり分かれていないこともあるし、社会部の記者の方が興味を持つこともあるかも知れない。有名じゃないけどおもしろい役者が出る、など、いろんな視点で作品を見ましょう」という話もありました。

次に、具体的に「今回の2つの作品をどう売っていくか?」アイデアを出していきました。

・映画のように、メンズデー、レディースデーなどの設定
・マンガが原作なので本屋のマンガコーナーにチラシを置いたり、コミケでチラシを配ったりする
・WEBで公演情報を書き込む
・原作者にプレトークに来てもらう

などのアイデアが出ました。
それぞれを 営業(足)、広報(口)、宣伝(金) に分類したりしましたが、この3つは演劇で集客するための3大要素だそうです。といっても、作品がいいかどうかで次の公演に足を運ぶかどうかが決まるので、いい作品であることは大前提です。

また、個々のプロモーションとは別に、演劇にとって口コミは大事な要素なので、よく観にきてくれるお客さんを個人プレイガイドとしてチケット販売をお願いしたり、常連のお客さんを会員として事前に情報をお知らせしたりといったことも考えてはどうかと講師は話していました。

そして、今後は媒体での「批評」も必要になっていくだろうとのことですが、「ほんとにその作品がいいかどうかは誰が批評するかというと、それもやはり制作者の仕事であり、批評眼を持って、作品を観ましょう」とのことでした。

次回は観客と作品との出会い、劇場に入ってから何が必要なのかという内容です。

Posted by 北九州芸術劇場(K) at 19:08