2005年07月04日

[演劇人の為のアーツマネージメント講座 ―How to 「演劇制作」―]

第3回 作品づくりの流れ (7月1日[金])

3回目の講座は、前回の宿題で作ってきた予算書を発表するところから始まりました。
各費目について受講生それぞれが横に並んで数字を書いていくと、チケット収入の現実を敢えて無視した上での理想の金額を出した人、あるいは乏しい収入を見据えてその中で支出を抑えた金額の人と様々でした。

それぞれの金額を見ながら算出の根拠などを探っていきましたが、人件費を決めるに当たって、世の中の月給の平均や初任給がいくらぐらいかとか、アルバイトの自給がどうなっているかといったことを基準にするといいということです。
舞台づくりで拘束日数がはっきりしている舞台スタッフの人件費は、日割計算で計算できるので分かりやすいそうですが、デザイン・プラン料についてははっきりとした基準がなく、お願いする相手と、業界の相場、その人との関係によって金額は様々のようです。
俳優の出演料も「1ステージにつきいくら」という数え方はしますが、その金額設定の基準もはっきりしたものはないとのことでした。

このように、支出がいくらになるか挙げてみて想定の収入では足りない場合、それでもやりたいというときにはどうするかとなると、収入を上げる=入場料を上げたり、支出を下げる=上演料などの交渉や提携公演にして施設費を下げたりを考えてみましょう、とのことでした。

こうして予算を立て、公演の規模を把握し、次にキャストやスタッフを決めていく…というような公演までの流れを演劇公演の場合、おおまかに書いてみると次のようになります。

 企画
  |
 予算
  |
  プロダクションの構成
   (キャスト、スタッフの決定)
  |
 具体的な企画書
  ↓
-------------
 稽古に入る
 顔合わせ --- 演出意図    
 美術(美術・照明・衣装・ヘアメイク)
 音の打合せも始まる
 本読み
 半立ち
 立稽古
 「場」ごとの稽古←音響が稽古場に入り始める
 通し稽古←照明家が稽古を観てプランに取り掛かる
--------
 仕込み
 場当たり
 通し(ゲネプロ)
 初日

この作品づくりの流れの中で、「制作者」はどういう立場でいるのか、という話もありました。
例えば、演出家と役者が稽古場での盛り上がりだけで、ある演出プランを採用しようとしたときに「それは客席から観てどうなのか?」という問いかけをする立場にあるのが制作者、とのこと。
「単に稽古場や創造現場での雑用の仕事をするのではなく、制作者には「自分がプロデュースするのだ」という意識を持った「クリエイター」であってほしい」そうです。
そのためには演出家や裏方スタッフと対等の関係を築いていなければいけないし、対等であるためには、作品の話がきちんとできるかどうかというのが重要なようです。

では、作品の話をきちんとできるようになるために、まず、「舞台を創っていく上での共通言語になるもの」とは何かが挙げられました。
 戯曲=ひとりひとりがどう読み込めているか
 企画書=どういうふうにやっていこうとしているのか、また、企画書がプレスシートやチラシの元になる
 予算書
 舞台図面(平面図、断面図)
 舞台についての知識(エレベーションや道具帳など)
特に舞台図面やというのは、「マネージメントだから図面が分からなくても構わない」という意識ではなく、基本的な知識を身に付け解るようになろうとする姿勢の有無が、スタッフからの信頼にもかかわるとのことでした。

こういった話題の続きで、実際に演劇をやっている人から悩んでいることなど質問を出してもらいました。
舞台監督と制作の受け持ち領域などの話もあり、講師によると「考え方としては、ステージを含むステージから裏が舞台監督の領域、客席やロビーに関係することが制作の領域。でもせめぎあう部分があるので少しくらい踏み越えることもある。そのために共通言語に対しての知識と理解が必要。」とのことでした。

制作が公演のために作る「ペーパー」の話もありました。
企画書に始まり、予算書や助成申請書、コンタクトシートやプレスシート、稽古日程表、決算書や報告書などなどですが、講師は「たかが紙一枚でもそれを作るためにどれだけの人と話をして、どれだけ動く必要があるか、考えて。それが集約されたものがペーパー。それを作成する過程に制作の仕事が生まれているということを理解してほしい。」とのことでした。

次回は「どうチケットを売っていくか」というテーマに入ります。

Posted by 北九州芸術劇場(K) at 14:56