[俳優の為の「呼吸・身体(からだ)・声」講座]
3日目 (基礎編 7月3日)
いつものウォーミングアップの後、壁に背中を付け腰を入れて立って声を出してみました。膝の中心線=お皿の真ん中と足の人差し指を結んだ線をまっすぐして足を曲げます。この中心線が歪むと足をひねったりしてしまうのだそうです。
次に、先ほどのように背中をまっすぐに、足を曲げ腰を下げた状態で歩いてみます。仙骨で体重移動し、すり足で歩いていきます。演技をするときは、歩いたり動いたりしながら声を出しますが、身体の中心線がとれてなかったり、足首が固かったりということが原因で声が出ないこともありえるとのこと。
↑腰を入れた状態で歩く
みなさん、なかなか難しいようですが、先生によると「大人だし、身体もでき上がってしまっているのですぐには無理。時間をかけて、心と身体のコミュニケーションをとりながら身体に“お願いする”気持ちで取り組む」とのことです。
しばらく歩いた後、滑舌の話に入りました。
舌を動かすときには顔の筋肉など持っているものを100%使う必要はなく、舌を両端で支えて自由に動けるようにしておくとのこと。滑舌が悪いというのは、舌の支えがなかったり、母音のときの舌の位置がよくなかったりしているのが原因の一つだそうです。
休憩の後、「ストップモーション」と「スローモーション」についての説明がありました。
ストップモーションとは、動きの途中で止まるということではなく、例えば、上下に動いているのであれば、上に行くのか下に行くのか分かる状態で止まるとのこと。動いているエネルギーを止めてしまっては、どちらかに動こうとしているのが見えなくなってしまうので、身体は止まっていてもエネルギーは動いているということです。
スローモーションも、動きの速度がゆっくりになるからといって動かすときに使うエネルギーを減らしたらスローモーションには見えないので、ゆっくりな分、エネルギーは倍必要とのこと。
見えていることと動いていることは同じではなく、動きが流れる方向性を考えないといけない。
どちらも、力を入れる筋力も、脱力を続けるだけの筋力も必要で、難しいことだけども稽古して身体の使い方を覚えるしかないし、どう動いているのか観察も大事だそうです。
次に、戯曲をどう読むかどう表現するかという話に移りました。
原作がある作品の場合は、原作から察することができることもあり、例えばテキストにしている『ファウスト』なら、原作者のゲーテは18世紀の人で裕福な家の子どもであり、若い娘にいつも恋をしている。『ファウスト』は16世紀のファウスト伝説を基にして書かれていて、原作では「ゴシック風の部屋」と書いてあるが今回のテキストでは「過去とも未来とも現在ともつかない」と書いてある、ということが原作や原作者の情報から分かります。
こういう読み方は演出家の意図と違ってもよいし、自分のイメージ、「絵」で読んで欲しいとのこと。そのときに「ゴシック風の」という絵が浮かぶかどうかは、その時代の絵画やその時代を舞台にした映画などを観たことがあるかないかで違ってくるので、加瀬先生は「常日頃から美術や映画を見て、自分の引き出しを増やしておいてください」とおっしゃってました。
稽古に入る前に、ここまでのことはやるべきだそうです。
それから、『ファウスト』でどの役をやりたいかということをみんなで出し合いました。
例えば、欲望に正直で苦労しているマルテは色んな作り方ができる役で、頑なな信仰心を持ち自分にも娘にも厳しいマルガレーテの母親はあまりいろいろ作れないけどそれも面白い役です。
また、お芝居に取り組むときに、話がどう繋がっていくかという「つながり」の部分を探したり、小道具や衣装など同じものが繰り返し使われ、その度に印象が強くなって物語の構成や背景に深みが出てきたりする「ループ感」など、「本を読んだり稽古をしたりする段階ですごく計算をしてほしい」とのことでした。
次回、テキストの『ファウスト』に入っていきます。
<受講生の感想>
【男性・舞台歴8年】
呼吸法だけでなく、台本の読み方、役へのアプローチの仕方など、実際的な内容で、今年から演劇活動を再開しようとしている自分にとって、とても役立ちました。
【女性・舞台歴15年】
毎回情報量が多くて、講座終了時には頭がいっぱいになっています。
いつも自分が無意識にやっていてできていないところを発見させられるんですが、今日は、自分のふくらはぎの筋肉の付き方が、偏平足気味な歩き方からきているものだということを知りました。
また、日頃から心がけていた映画・音楽鑑賞のような一見演劇とは関係ないようなことも、台本を読み込む際に役立つことだったと言われたので、これからも続けていこうと思います。